私「日本が、竹島問題をICJ国際司法裁判所に提訴する準備をしているのを知ってるだろ?」
ハナ「領土問題ね」
私「そうだ。しかし、なぜICJ国際司法裁判所なのか?なぜICC国際刑事裁判所で
はないのか分かるかい?」
イチロー「ICJの方が偉い」
アンポリ「ケケケケ」
ケンジ「お前、アンポリに笑われてるぞ」
イチロー「いや、ストレスがあるとこんな声をだすんだ」
ケンジ「ストレスねえ、安心して寝てるじゃないか」
ハナ「国と国の問題だからICJなのよ」
私「その通りだ!(一人でもまともなのがいるとホッとする)」
ハナ「一応、予習したのよね。国と国の間の問題を扱うのがICJで、国境を越えて
個人の犯罪を扱うのがICC」
私「そうだ。だからICJでは領土問題や国際法の解釈などに勧告的意見をだす」
イチロー「韓国的な意見か?」
ケンジ「勧告的だろ!」
私「要は助言だな。だが単なる助言ではなく、専門家が国際法廷のシステムを駆
使して出してくる勧告だから、権威がある」
ハナ「国際法廷のシステムってどういうことですか?」
私「まず、世界の国際法の第一人者が集まっている」
ハナ「そうよねえ、世界の法廷だものねえ」
私「手続きも厳しくて、国家がICJにお願いするってところから始まる」
ハナ「個人や会社ではできない」
私「そうだ。国から付託するときには両当事国の同意が必要だ。どちらも平等だから、両方が合意しないと裁判は開始できない」
ハナ「一方の味方をするわけにいかない」
私「国連総会や国連機関などもICJの法的意見を要請できる」
ハナ「その場合は当事国の同意はいらない」
私「1994年に国連総会がICJの勧告的意見を求める決議を行って、“核兵器の威嚇又は使用は、いかなる状況においても国際法上許容されるか”という質問をしたんだ」
ハナ「どういうこと?」
私「核兵器の合法性を問題にしたんだよ」
ハナ「核兵器の合法性?核兵器が合法なわけないでしょ?」
イチロー「そうだ!絶対許されない!」
ケンジ「あり得ないよな」
私「お前ら、まだ居たのか?」
イチロー、ケンジ「先生、えこひいきは良くないよ」
ハナ「あんた達が予習しないからじゃない。威勢はいいが勉強はしない。困ったもんよねえ、アンポリ」
アンポリ「ゴロゴロ」
私「核兵器が違法かどうかの問題は、果たして人道法違反とならない範囲で使用
できる核兵器の種類や状況があるのかっていう問題が一つある1」
イチロー「人道法って?」
ハナ「やだーっ、アンリ・デュナンの話 、覚えてないの?」
イチロー「人工透析くらい知ってるよ」
ケンジ「それは腎臓病だろ!人道法!」
ハナ「あんた達にはあきれた!復習もしてない」
イチロー「そう人道法だ。で、人道法って簡単にいうと何だっけ?」
ハナ「要は、戦争中であっても民間人を殺傷してはいけないとか、軍事的な標的
以外を狙ってはいけないとか、不必要な苦しみを与えてはいけないとかいう国際
法よ。ジュネーブ諸条約と追加議定書!」
私「敵味方に分かれて戦争することがあっても、人間としてやってはいけない事
があるだろう、っていうことだな。それを改めて条約の形でまとめてきたのが国
際人道法だ」
ケンジ「ということは、戦争はやっても良い…」
私「うん、そこだ!(たまに鋭い事をいうなあ)もう一つは核兵器使用を許すよ
うな自衛権行使がありうるのかという問いに行き着くんだ」
ハナ「どういうことですか?」
私「うん。ここはとっても大切なところだから、次回にするよ。予習しておいて欲しい。次回は“戦争の違法化”を考えるよ」
イチロー「戦争の違法化?」
私「そうだ。国連憲章の大きな成果だ。(いやー佳境にはいってきたなあ…)」
つづく
参照1 篠田 英朗 広島大学平和科学研究センター、核兵器使用と国際人道法 ―1996
年核兵器使用と使用の威嚇に関
する
国際司法裁判所勧告的意見を中心にして―http://home.hiroshima-u.ac.jp/heiwa/Pub/27/Sh.pdf,
accessed
Aug.16,2012
政治の役割 – ロメオ・ダレール
私「今日のゲストはロメオ・ダレールだ」
ダレール「キッズ地球防衛隊の諸君、おはよう!」
一同「おはようございまーす!」
ロメオ・ダレール:カナダ上院議員。1993-4年の国際連合ルワンダ支援団
(UNAMIR)司令官。当時、ジェノサイドが準備され武器の輸入が始まっていたこと
を察知したダレール将軍の再三の増派要請にもかかわらず、コフィ・アナン事務
総長の国連は、逆にピースキーパーの数を著しく削減、知り得た情報も当該政府と共有することを指示。この結果、UNMIRは、人員、装備、権限が著しく不十分のまま、100日間で約80万人が虐殺されたとされるルワンダのジェノサイドを目撃することになる。ダレール将軍は国連への報告書を書くことに困難を覚えるようになったとして離任。帰国後PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患い、公園でアルコールと薬物による自殺未遂で昏睡状態になっているところを発見される。現在は子供兵の問題などに取り組む。R2P保護する責任を支持。
イチロー「コフィ・アナンひどい!」
ダレール「別にアナン事務総長の責任だけじゃない」
イチロー「でも増派できていれば、ジェノサイドは防げたんでしょう?」
ダレール「あの時に良く訓練され、装備も充分で、適切な権限をもった5,000人
のピースキーパーが展開できていれば、50万人の命を救えたというレポートがある」
ケンジ「ジェノサイドの罪に国連も加担してるじゃないか!」
ダレール「ほう。それじゃ、あの時ピースキーパーの削減を決めたのは誰だと思
う?」
イチロー「誰だろうが許さないよ!」
ダレール「安保理だ」
イチロー「えー、俺んちの猫、アンポリって名前なんだ。失敗したなあ」
ケンジ「ややこしい名前をつけるな!」
ハナ「関係ないじゃない!」
アンポリ「ミャー」
イチロー「アンポリ、おしっこするなよ!」
ダレール「まあ、アンポリも安保理も似たようなもんだ」
一同「えーっ?」
ダレール「現場でジェノサイドが起こりつつある時、1万キロ離れ、エアコンの
効いた会議室でピースキーパーの削減が決められたんだ。安保理と一緒にしたらアンポリに失礼かもしれん」
アンポリ「ミャー」
ダレール「何十万という人間の命に係わる決定をしたとき、その会議室にいた何
人がルワンダに行ったことがあったか?」
アンポリ「フーッ」
ダレール「会議室の何人がルワンダの状況を理解したか?」
アンポリ「フーーッッ」
ダレール「会議室の何人がルワンダの人命だけを考えたか?」
アンポリ「ミビャー-ッ」 イチロー「アンポリ、興奮するな、引っ掻くのやめろ!」
ハナ「でも、この失敗がそのまま放置されているんですか?」
ダレール「いや、幸いなことに1994年11月にルワンダ国際刑事裁判所
(International Criminal tribunal for Rwanda, ICTR)が設置された。この事件を裁く国際法廷だ。私も出廷して証言した」
ハナ「いったい誰が責任者だったんですか!」
ダレール「80万とか100万とかいわれている人達が組織的に、ナタなどの原始的な武器で屠殺されるように殺害されて行った。200万以上が難民になった。こんな大規模の事件で犯人を数えだしたらどこまで行くのかわからない」
ハナ「でも誰が責任者なんですか!」
ダレール「この国際法廷では、前総理大臣のジーン・カンパンダがジェノサイド
罪を認め終身刑に服している。これがどういうことか分かるか?」
ハナ「どういう意味?」
ダレール「一つの民族を組織的に抹殺する、虐殺するという行為が、当時の政府の最高レベルで計画され、官僚組織も軍事組織もこれを支援したということだ」参照1
一同「…」
ダレール「だから政治の暴走は恐ろしいんだ」
イチロー「しかもルワンダだけじゃない」
ケンジ「過去の話でもない、現在進行形だ」
ハナ「私、キッズ地球防衛隊って名前がイヤになってきた」
イチロー「サンダーバードっぽくていいじゃないか!」
ハナ「だからダメなのよ。まるで宇宙人を相手にしているみたいじゃない!何
よ!人間の方が怖いじゃない!」
ケンジ「泣かなくても良いだろ!」
イチロー「じゃあ、“キッザニア政府”にしよう」
ダレール「それじゃ俺は帰るよ。君たちにはみんな期待してるんだから、結果出
せよ。バーイ」
ケンジ「行っちまったよ」
私「それでは今日はここまでだ。明日はICC国際刑事裁判所をやる。予習しとけ
よ。アンポリ、おいで。ミルクあげるよ」
アンポリ「ミャー」
つづく
犬塚直史(いぬづかただし)
参照1
Third annual report of the International Criminal Tribunal for the Prosecution of Persons Responsible for
Genocide and Other Serious Violations of International Humanitarian Law Committed in the Territory of
Rwanda, http://www.unictr.org/Portals/0/English/AnnualReports/a-53-429.pdf , accessed Aug. 15, 2012
ダレール「キッズ地球防衛隊の諸君、おはよう!」
一同「おはようございまーす!」
ロメオ・ダレール:カナダ上院議員。1993-4年の国際連合ルワンダ支援団
(UNAMIR)司令官。当時、ジェノサイドが準備され武器の輸入が始まっていたこと
を察知したダレール将軍の再三の増派要請にもかかわらず、コフィ・アナン事務
総長の国連は、逆にピースキーパーの数を著しく削減、知り得た情報も当該政府と共有することを指示。この結果、UNMIRは、人員、装備、権限が著しく不十分のまま、100日間で約80万人が虐殺されたとされるルワンダのジェノサイドを目撃することになる。ダレール将軍は国連への報告書を書くことに困難を覚えるようになったとして離任。帰国後PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患い、公園でアルコールと薬物による自殺未遂で昏睡状態になっているところを発見される。現在は子供兵の問題などに取り組む。R2P保護する責任を支持。
イチロー「コフィ・アナンひどい!」
ダレール「別にアナン事務総長の責任だけじゃない」
イチロー「でも増派できていれば、ジェノサイドは防げたんでしょう?」
ダレール「あの時に良く訓練され、装備も充分で、適切な権限をもった5,000人
のピースキーパーが展開できていれば、50万人の命を救えたというレポートがある」
ケンジ「ジェノサイドの罪に国連も加担してるじゃないか!」
ダレール「ほう。それじゃ、あの時ピースキーパーの削減を決めたのは誰だと思
う?」
イチロー「誰だろうが許さないよ!」
ダレール「安保理だ」
イチロー「えー、俺んちの猫、アンポリって名前なんだ。失敗したなあ」
ケンジ「ややこしい名前をつけるな!」
ハナ「関係ないじゃない!」
アンポリ「ミャー」
イチロー「アンポリ、おしっこするなよ!」
ダレール「まあ、アンポリも安保理も似たようなもんだ」
一同「えーっ?」
ダレール「現場でジェノサイドが起こりつつある時、1万キロ離れ、エアコンの
効いた会議室でピースキーパーの削減が決められたんだ。安保理と一緒にしたらアンポリに失礼かもしれん」
アンポリ「ミャー」
ダレール「何十万という人間の命に係わる決定をしたとき、その会議室にいた何
人がルワンダに行ったことがあったか?」
アンポリ「フーッ」
ダレール「会議室の何人がルワンダの状況を理解したか?」
アンポリ「フーーッッ」
ダレール「会議室の何人がルワンダの人命だけを考えたか?」
アンポリ「ミビャー-ッ」 イチロー「アンポリ、興奮するな、引っ掻くのやめろ!」
ハナ「でも、この失敗がそのまま放置されているんですか?」
ダレール「いや、幸いなことに1994年11月にルワンダ国際刑事裁判所
(International Criminal tribunal for Rwanda, ICTR)が設置された。この事件を裁く国際法廷だ。私も出廷して証言した」
ハナ「いったい誰が責任者だったんですか!」
ダレール「80万とか100万とかいわれている人達が組織的に、ナタなどの原始的な武器で屠殺されるように殺害されて行った。200万以上が難民になった。こんな大規模の事件で犯人を数えだしたらどこまで行くのかわからない」
ハナ「でも誰が責任者なんですか!」
ダレール「この国際法廷では、前総理大臣のジーン・カンパンダがジェノサイド
罪を認め終身刑に服している。これがどういうことか分かるか?」
ハナ「どういう意味?」
ダレール「一つの民族を組織的に抹殺する、虐殺するという行為が、当時の政府の最高レベルで計画され、官僚組織も軍事組織もこれを支援したということだ」参照1
一同「…」
ダレール「だから政治の暴走は恐ろしいんだ」
イチロー「しかもルワンダだけじゃない」
ケンジ「過去の話でもない、現在進行形だ」
ハナ「私、キッズ地球防衛隊って名前がイヤになってきた」
イチロー「サンダーバードっぽくていいじゃないか!」
ハナ「だからダメなのよ。まるで宇宙人を相手にしているみたいじゃない!何
よ!人間の方が怖いじゃない!」
ケンジ「泣かなくても良いだろ!」
イチロー「じゃあ、“キッザニア政府”にしよう」
ダレール「それじゃ俺は帰るよ。君たちにはみんな期待してるんだから、結果出
せよ。バーイ」
ケンジ「行っちまったよ」
私「それでは今日はここまでだ。明日はICC国際刑事裁判所をやる。予習しとけ
よ。アンポリ、おいで。ミルクあげるよ」
アンポリ「ミャー」
つづく
犬塚直史(いぬづかただし)
参照1
Third annual report of the International Criminal Tribunal for the Prosecution of Persons Responsible for
Genocide and Other Serious Violations of International Humanitarian Law Committed in the Territory of
Rwanda, http://www.unictr.org/Portals/0/English/AnnualReports/a-53-429.pdf , accessed Aug. 15, 2012
保護する責任とは - ③ギャレス・エバンス
エバンス「キッズ地球防衛隊の諸君、おはよう!」
一同「おはようございまーす!」
私「ギャレスは今日の飛行機で発つが、その前にもう一度講義をしてくれる。ラッキーだぞ!(その分、きのうは寿司と冷酒で散財したぞ)」
イチロー「エバンスさん!」
ケンジ「おっさん、って言わないところが進歩だな」
イチロー「世界の警察、できてないじゃないですか!」
エバンス「?」
ハナ「あっ、私から説明します。つまり、保護する責任が2005年の国連サミットで認められたのは良いんだけど、それは理念を認めたってことで、実際に世の中が安全で住みやすくはなっていない。国連ができて67年も経つのに、大人は本気でやっているんですか?会議ばっかりじゃないんですか?っていう意味です」
イチロー「日・日の通訳が要るとは思わなかった…」
エバンス「その通りだ!」
一同「えーっ」
エバンス「まったくその通りだ!おれも腹がたつ!そこで君たちに質問だ。国連ってのは一体なんだと思う?」
イチロー「会議するところ」
ハナ「主権国家の代表が集まる」
ケンジ「5大国のパワーゲーム」
エバンス「うん。私にとってはね、国連は“鏡に映った自分の顔”だ」
一同「鏡に映った自分の顔…」
エバンス「“戦争の惨害から次世代を救う”といって67年も経つのに、世の中少しも平和になっていない。国連は何をやっているんだ、っていう気持ちはわかる。だが、世の中に国連人という人種はいない。国連という国もない。国連は何をやっているんだ、という言葉はだれに向かって言うんだい?」
イチロー「国連事務総長」
エバンス「ほう。じゃあ、国連の予算はいくらか知ってるかい?」
イチロー「知りません」
エバンス「2010年度で約25億ドル(約2,500億円)、東京都世田谷区と同じだ。国連事務総長は世田谷区長と同じ予算しかもっていない」参照1
ハナ「えーっ、世田谷区長と同じレベルなの?」
ケンジ「次世代を戦争の惨害から救うのが世田谷区長?」
エバンス「世界警察の質問をしたね。現在一番近い活動がピースキーピングだが、予算は同年で約79億ドル(7,900億円)、世界各国の年間軍事支出1兆4,000億ドルの0.5%にしかすぎない」
イチロー「なんだよそれ!」
エバンス「なんだよそれ!っていいたいのは俺の方だ。君たちに足りないのは当
事者意識だ!」
イチロー「なんだ、温泉ならたまに行くぞ!」
ケンジ「それは湯治だろ!」
エバンス「世の中呆れるほど腹のたつことばかりだ。誰かやらないのかって、そ
う言うのは簡単だ。だがね、その誰かってのは君たちのことだ!」
ハナ「確かにそうだわ!だから国連は鏡に映った自分の顔なのね」
私「そろそろ本題に入らないと時間がないぞ」
エバンス「よし、それじゃあ本題だ。R2P保護する責任の発展は3つの段階に分
けて考えることができる。
第一は、理念の誕生だ。ICISS主権と介入に関する国際委員会(InternationalCommission on Intervention and State Sovereignty)のレポートが出た2001年から国連サミットで理念が認められた2005年までが誕生期だ。許し難いアトロシティー・クライムを止めることができない国には、内政不干渉は適応されない。これが2005年の国連サミットで採択された。
どうして地球の“南”といわれる、植民地主義の苦い経験をもっている国々が賛成できたのか?簡単だ。どんな言葉を使っても表現出来ないような許し難い犯罪を、国内だけでは止めることができない事態になり得ることを知っているからだ。人間は恐ろしい。
だからアフリカのサブ・サハラの国々が力強いサポートをしたんだ。南アメリカの国々も同様に強く支持した。R2P保護する責任は、介入ではなく人権を護る責任だからだ。そして2006年には安保理決議によって認められている。
第二が理念の発展だ。理念が認められても、実際の行動に結びつかなければ意味がない。そうした意味で2005年から2011年の間はこの理念の発展段階といえる。
特にバン・キムン事務総長の特別顧問としてR2P保護する責任担当のエド・ラ
ックが2009年に提出したレポートは、行動に結びつける準備として大きな役割を
果たした。
すなわちR2Pには3つの柱がある。
一つ目は主権国家の自己責任、
二つ目は国際社会がこれをサポートする責任、
そして3つ目が最後の手段としての
国際社会の対応責任だ。こうした手続きを踏むことで新たな植民地主義といわれるような要素はほぼなくなったと考えて良い。
第三は政治的意思だ。理念が受け入れられ、行動規範が制備されても、政治が決定しなければ動かない。この点についても2001年から現在に至るまでに大きな進歩が見られる。2001年当時は議論百出だったR2Pも、現在では正面から反対する国は4つしかない。すなわち、ニカラグア、べネゼエラ、キューバ、そしてスーダンだ。この間にダルフール、民主共和コンゴ、スリランカ、ミャンマー/ビルマ、ケニア、ジョージアなどの人権侵害が注目されてきたこともR2Pの必要性を認識させた一因だ。
今必要なのは、意思決定に係るプロセスと執行機関の制備だ。そしてこれを実現させるのが政治的な意思ってことだ。R2Pの現状についてはR2Pモニター(参照2)を見て欲しい。
シリアの状況も含めて最新情報がのっている。2010年9月にはデンマーク、ガーナの協力を得て、フォーカル・ポイントという政府間の協力体制をつくる試みもスタートした。参照3
国連の中にも、ジェノサイドを防ぐための共同事務所が設置されているが、詳しくは別紙を参照して欲しい。参照4
それじゃ、俺はもう行くよ。次に会うときはお勉強じゃなくて、具体的に協力しような。バーイ!」
ケンジ「行っちまった」
イチロー「俺は反省してる」
ハナ「あら、どうして?」
イチロー「動いてないのは俺の方だった。見てろー、これから俺はその辺を走ってくるからな」
ケンジ「それは違うだろ!」
ハナ「良いのよ!私達はこれからなんだから」
ケンジ「そこだ!エバンスのおっさんは、政治的な意思が大事といっただろ?」
ハナ「それがないと何も動かないって」
ケンジ「だが彼は現役の政治家じゃない」
ハナ「なにそれ?」
ケンジ「オーストラリアの外務大臣だったんだろ?」
ハナ「そうよ」
ケンジ「政治家が終わった後の隠居仕事じゃないか」
ハナ「何よそれ!失礼じゃない!」
ケンジ「でもさ、どうしてこういう話に現役の政治家がでてこないんだろ?」
私「選挙に落ちるからだ」
一同「えーっ!」
私「本当だよ。年金・介護・医療・教育・福祉・景気・公共工事なら生活に直結
した政治だが、こんな話は有権者の生活からかけ離れているんだ」
イチロー「いや、それなら年金よりもおいしい給食だよなあ」
ハナ「10時と3時に、おやつのケーキが出るとかね」
ケンジ「ケーキにシャンパンが付くとかな」
私「お前ら中学生だろ!(ゲストが居なくなるとすぐこれだ)まあ、そういうことなら次回は“政治の役割”にしょう。ゲストはカナダのロメオ・ダレール上院議員
だ」
参照1
国連広報センター、http://unic.or.jp/information/budget/ 、accessed Aug.14,2012
参照2
Global Center for the Responsibility to Protect, http://globalr2p.org/ , accessed Aug 14, 2012
参照3
R2P Focal Points: Global Center for the Responsibility to Protect, http://globalr2p.org/advocacy/
FocalPoints.php, accessed Aug 14, 2012http://www.responsibilitytoprotect.org/index.php/
component/content/article/3618, Joint Office of the Special Adviser on the Prevention of the Genocide, and the
Responsibility to Protect, accessed Aug 14, 2012 http://www.responsibilitytoprotect.org/index.php/component/
content/article/3618
参照4
International Coalition for the Responsibility to Protect,
一同「おはようございまーす!」
私「ギャレスは今日の飛行機で発つが、その前にもう一度講義をしてくれる。ラッキーだぞ!(その分、きのうは寿司と冷酒で散財したぞ)」
イチロー「エバンスさん!」
ケンジ「おっさん、って言わないところが進歩だな」
イチロー「世界の警察、できてないじゃないですか!」
エバンス「?」
ハナ「あっ、私から説明します。つまり、保護する責任が2005年の国連サミットで認められたのは良いんだけど、それは理念を認めたってことで、実際に世の中が安全で住みやすくはなっていない。国連ができて67年も経つのに、大人は本気でやっているんですか?会議ばっかりじゃないんですか?っていう意味です」
イチロー「日・日の通訳が要るとは思わなかった…」
エバンス「その通りだ!」
一同「えーっ」
エバンス「まったくその通りだ!おれも腹がたつ!そこで君たちに質問だ。国連ってのは一体なんだと思う?」
イチロー「会議するところ」
ハナ「主権国家の代表が集まる」
ケンジ「5大国のパワーゲーム」
エバンス「うん。私にとってはね、国連は“鏡に映った自分の顔”だ」
一同「鏡に映った自分の顔…」
エバンス「“戦争の惨害から次世代を救う”といって67年も経つのに、世の中少しも平和になっていない。国連は何をやっているんだ、っていう気持ちはわかる。だが、世の中に国連人という人種はいない。国連という国もない。国連は何をやっているんだ、という言葉はだれに向かって言うんだい?」
イチロー「国連事務総長」
エバンス「ほう。じゃあ、国連の予算はいくらか知ってるかい?」
イチロー「知りません」
エバンス「2010年度で約25億ドル(約2,500億円)、東京都世田谷区と同じだ。国連事務総長は世田谷区長と同じ予算しかもっていない」参照1
ハナ「えーっ、世田谷区長と同じレベルなの?」
ケンジ「次世代を戦争の惨害から救うのが世田谷区長?」
エバンス「世界警察の質問をしたね。現在一番近い活動がピースキーピングだが、予算は同年で約79億ドル(7,900億円)、世界各国の年間軍事支出1兆4,000億ドルの0.5%にしかすぎない」
イチロー「なんだよそれ!」
エバンス「なんだよそれ!っていいたいのは俺の方だ。君たちに足りないのは当
事者意識だ!」
イチロー「なんだ、温泉ならたまに行くぞ!」
ケンジ「それは湯治だろ!」
エバンス「世の中呆れるほど腹のたつことばかりだ。誰かやらないのかって、そ
う言うのは簡単だ。だがね、その誰かってのは君たちのことだ!」
ハナ「確かにそうだわ!だから国連は鏡に映った自分の顔なのね」
私「そろそろ本題に入らないと時間がないぞ」
エバンス「よし、それじゃあ本題だ。R2P保護する責任の発展は3つの段階に分
けて考えることができる。
第一は、理念の誕生だ。ICISS主権と介入に関する国際委員会(InternationalCommission on Intervention and State Sovereignty)のレポートが出た2001年から国連サミットで理念が認められた2005年までが誕生期だ。許し難いアトロシティー・クライムを止めることができない国には、内政不干渉は適応されない。これが2005年の国連サミットで採択された。
どうして地球の“南”といわれる、植民地主義の苦い経験をもっている国々が賛成できたのか?簡単だ。どんな言葉を使っても表現出来ないような許し難い犯罪を、国内だけでは止めることができない事態になり得ることを知っているからだ。人間は恐ろしい。
だからアフリカのサブ・サハラの国々が力強いサポートをしたんだ。南アメリカの国々も同様に強く支持した。R2P保護する責任は、介入ではなく人権を護る責任だからだ。そして2006年には安保理決議によって認められている。
第二が理念の発展だ。理念が認められても、実際の行動に結びつかなければ意味がない。そうした意味で2005年から2011年の間はこの理念の発展段階といえる。
特にバン・キムン事務総長の特別顧問としてR2P保護する責任担当のエド・ラ
ックが2009年に提出したレポートは、行動に結びつける準備として大きな役割を
果たした。
すなわちR2Pには3つの柱がある。
一つ目は主権国家の自己責任、
二つ目は国際社会がこれをサポートする責任、
そして3つ目が最後の手段としての
国際社会の対応責任だ。こうした手続きを踏むことで新たな植民地主義といわれるような要素はほぼなくなったと考えて良い。
第三は政治的意思だ。理念が受け入れられ、行動規範が制備されても、政治が決定しなければ動かない。この点についても2001年から現在に至るまでに大きな進歩が見られる。2001年当時は議論百出だったR2Pも、現在では正面から反対する国は4つしかない。すなわち、ニカラグア、べネゼエラ、キューバ、そしてスーダンだ。この間にダルフール、民主共和コンゴ、スリランカ、ミャンマー/ビルマ、ケニア、ジョージアなどの人権侵害が注目されてきたこともR2Pの必要性を認識させた一因だ。
今必要なのは、意思決定に係るプロセスと執行機関の制備だ。そしてこれを実現させるのが政治的な意思ってことだ。R2Pの現状についてはR2Pモニター(参照2)を見て欲しい。
シリアの状況も含めて最新情報がのっている。2010年9月にはデンマーク、ガーナの協力を得て、フォーカル・ポイントという政府間の協力体制をつくる試みもスタートした。参照3
国連の中にも、ジェノサイドを防ぐための共同事務所が設置されているが、詳しくは別紙を参照して欲しい。参照4
それじゃ、俺はもう行くよ。次に会うときはお勉強じゃなくて、具体的に協力しような。バーイ!」
ケンジ「行っちまった」
イチロー「俺は反省してる」
ハナ「あら、どうして?」
イチロー「動いてないのは俺の方だった。見てろー、これから俺はその辺を走ってくるからな」
ケンジ「それは違うだろ!」
ハナ「良いのよ!私達はこれからなんだから」
ケンジ「そこだ!エバンスのおっさんは、政治的な意思が大事といっただろ?」
ハナ「それがないと何も動かないって」
ケンジ「だが彼は現役の政治家じゃない」
ハナ「なにそれ?」
ケンジ「オーストラリアの外務大臣だったんだろ?」
ハナ「そうよ」
ケンジ「政治家が終わった後の隠居仕事じゃないか」
ハナ「何よそれ!失礼じゃない!」
ケンジ「でもさ、どうしてこういう話に現役の政治家がでてこないんだろ?」
私「選挙に落ちるからだ」
一同「えーっ!」
私「本当だよ。年金・介護・医療・教育・福祉・景気・公共工事なら生活に直結
した政治だが、こんな話は有権者の生活からかけ離れているんだ」
イチロー「いや、それなら年金よりもおいしい給食だよなあ」
ハナ「10時と3時に、おやつのケーキが出るとかね」
ケンジ「ケーキにシャンパンが付くとかな」
私「お前ら中学生だろ!(ゲストが居なくなるとすぐこれだ)まあ、そういうことなら次回は“政治の役割”にしょう。ゲストはカナダのロメオ・ダレール上院議員
だ」
参照1
国連広報センター、http://unic.or.jp/information/budget/ 、accessed Aug.14,2012
参照2
Global Center for the Responsibility to Protect, http://globalr2p.org/ , accessed Aug 14, 2012
参照3
R2P Focal Points: Global Center for the Responsibility to Protect, http://globalr2p.org/advocacy/
FocalPoints.php, accessed Aug 14, 2012http://www.responsibilitytoprotect.org/index.php/
component/content/article/3618, Joint Office of the Special Adviser on the Prevention of the Genocide, and the
Responsibility to Protect, accessed Aug 14, 2012 http://www.responsibilitytoprotect.org/index.php/component/
content/article/3618
参照4
International Coalition for the Responsibility to Protect,
キッズ地球防衛隊❶、その日イチローの家で
イチロー「結局大人達はまだ本題に入ってない。戦争が終わった直後は本気だったけど、あとは違う所をグルグル回ってる」
ハナ「でも、ICRC赤十字国際委員会、MSF国境なき医師団、Peacekeeping国連の平和維持活動の話なんか凄かったなあ。他にも私達の知らない活動が五万とあるのよ」
イチロー「それはみんな現場の活動だろ?」
ハナ「そう」
イチロー「“目の前の患者を救うことは出来るが、紛争の原因をなくすことはできない”っていってたじゃないか」
ハナ「だからICC国際刑事裁判所とかR2P保護する責任とか出てきたんじゃない?“許し難い犯罪”に直面している人達を“保護する”っていうことだけを考えれば、間違いはないわ!」
ケンジ「だけ、を考えるってのが怪しいんだよ」
イチロー「そう、リビアがそうだ。結局あそこまで行くと、保護するだけ、というのは会議室で言うことで、現場ではカダフィー政権の転覆まで行かないと終わらない」
ケンジ「だから“保護する責任”ってのは怪しいんだ」
ハナ「怪しいんじゃなくて、だから21世紀のピースキーピンングが必要だ、必ず俺たちがやってみせるぜって、啖呵切ったでしょ!」
ケンジ「いや、発展途上国が“形を変えた植民地政策”だっていうのも一理あるってことだ」
ハナ「それは違う!主権国家の中では何をしてもいいけど、アトロシティー・クライムはだめよ、ってことでしょう?結局アトロシティー・クライムがだめっていうのは、法律で決めるまでもないってことよ。侵略とか奴隷売買とかもその内はいってくるわよ。こんな基本的な人権侵害を止められない国に“内政不干渉”はいえないってこと」
イチロー「だから、人類共通の敵であるアトロシティー・クライムを止めるためなら、南北問題を超えて国連でも合意されたんだ。この辺は明日の講義で詳しくやるはずだ」
ケンジ「興味津々ってとこだな」
犬塚直史(いぬづかただし)
ハナ「でも、ICRC赤十字国際委員会、MSF国境なき医師団、Peacekeeping国連の平和維持活動の話なんか凄かったなあ。他にも私達の知らない活動が五万とあるのよ」
イチロー「それはみんな現場の活動だろ?」
ハナ「そう」
イチロー「“目の前の患者を救うことは出来るが、紛争の原因をなくすことはできない”っていってたじゃないか」
ハナ「だからICC国際刑事裁判所とかR2P保護する責任とか出てきたんじゃない?“許し難い犯罪”に直面している人達を“保護する”っていうことだけを考えれば、間違いはないわ!」
ケンジ「だけ、を考えるってのが怪しいんだよ」
イチロー「そう、リビアがそうだ。結局あそこまで行くと、保護するだけ、というのは会議室で言うことで、現場ではカダフィー政権の転覆まで行かないと終わらない」
ケンジ「だから“保護する責任”ってのは怪しいんだ」
ハナ「怪しいんじゃなくて、だから21世紀のピースキーピンングが必要だ、必ず俺たちがやってみせるぜって、啖呵切ったでしょ!」
ケンジ「いや、発展途上国が“形を変えた植民地政策”だっていうのも一理あるってことだ」
ハナ「それは違う!主権国家の中では何をしてもいいけど、アトロシティー・クライムはだめよ、ってことでしょう?結局アトロシティー・クライムがだめっていうのは、法律で決めるまでもないってことよ。侵略とか奴隷売買とかもその内はいってくるわよ。こんな基本的な人権侵害を止められない国に“内政不干渉”はいえないってこと」
イチロー「だから、人類共通の敵であるアトロシティー・クライムを止めるためなら、南北問題を超えて国連でも合意されたんだ。この辺は明日の講義で詳しくやるはずだ」
ケンジ「興味津々ってとこだな」
犬塚直史(いぬづかただし)
保護する責任とは - ②ギャレス・エバンス
私「授業再開する」
一同「おぉーーっ」
私「(こいつら気合いだけは良いんだよなあ)」
エバンス
「なぜR2P保護する責任という理念が、今、この時代に出て来たのか?
正解はアトロシティー・クライムに対応するためだ。アトロシティー・クライムはジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪、民族浄化の4つだ。まずここをしっかり押さえて欲しい。
一言でいえば許し難い大量虐殺、民間人への攻撃や捕虜の拷問など大規模な戦争犯罪、特定の民族や地域住民に対する強制移住や組織的なレイプなどだが、4つの犯罪は国際法でしっかりと定義され、こうした罪を犯した個人に対して国際刑事裁判所(International Criminal Court, ICC)が管轄権を持っている。
この4つは人類の良心に衝撃を与えるような許し難い犯罪だ。しかし、アトロシティー・クライムがどんなに許し難い犯罪であっても、今まで国際社会は全く無関心だった。ウエストファリア条約以来360年間経つが、主権国家は“殺しのライセンス”をもっていたといえる。参照1
そしてこの状況は、人類がホロコーストを目撃した後でも、国連人権宣言採択の後でも変わらなかった。
ジェノサイド禁止条約が発効しても継続した。強制力、執行力に欠ける国際法に懐疑的な見方があるのはこうしたところからくる。
R2P保護する責任はこうした政治的な問題に対する政治的な答えだ。R2Pが登場する前、1970年代半ばからカンボジア、パキスタン、ウガンダで起こったアトロシティー・クライムが起こり、1990年代に入って、ルワンダ、スレプレニッツア、コソボなどでも起こった。
こうした犯罪を目の前にして先進国は「人道的介入」を主張した。これに対して発展途上国は「形を変えた植民地政策」であると主張し、地球上の南北の国々が認識を共有することはなかった。
こうした事情が変化したのは2000年の国連ミレニアムサミットでの、コフィ・アナン事務総長発言だ。彼は、「もし人道的介入が主権国家に受け入れられないなら、我々はルワンダやスレプレニッツアにどう対応するのか?」と、国際社会に挑戦したのだ。
このチャレンジを受け止めたのがカナダ政府で、“主権と介入に関する国際委員会(International Commission for State Sovereinty and Intervention, ICSSI)を組織し、2001年には「保護する責任」というレポートを提出してこれに答えた。私もこの委員会メンバーの一人だ。
ここでいう保護する責任という理念は、時代を画する3つの大きな貢献をしたと思う。
一つ目は、国家に対する考え方が完全に転換したことだ。大規模な人権侵害を止めることは「介入」ではなく「責任」だとした。
これは言葉の違いだけではない。
保護する責任に基づいて、アトロシティー・クライムを無くすことが国家の責任とするならば、これに失敗し続ける国家は、国家ではなくなる。主権国家として認められるには、そこに住んでいる人達を保護する責任を全うしなければならないということだ。「主権国家は責任を伴う」というのは過去にない全く新しい考え方だ。
二つ目の貢献は関係する当事者が世界規模に広がったことだ。
「介入する権利」では、支援の障害を乗り越えて人権活動団体が活動する、そしてこれを軍事介入などで支える等の形に限定されがちだ。しかし「当事国の責任」、そして「当事国が能力も意思も持たない場合は国際社会の責任」としたことで、国連加盟の全ての国家が当事者になった。
三つめの貢献は、政策の選択肢を広げたことだ。「介入」では、介入に至るまでの道筋も介入後の再発防止も視野に入らない。しかし、「責任」では、予防・対応・再建の3つのフェーズが視野に入る。すなわち、”予防フェーズ”
で、開発・監視など、”対応フェーズ”で、説得・仲裁・経済制裁・刑事訴追・軍事介入など、“再建フェーズ”で、治安機構改革・武装解除・元兵士の社会復帰などだ。長期的な視野をもった再建フェーズは開発に係わるから、ここで再建が予防につながる。
こうして、「人道的介入」を「保護する責任」理念に整理したことで、主権国家は主権国家たる責任を負うことが規定され、長期的な視野をもってアトロシティー・クライムの防止を考えることが可能となった」
私「ギャレス、一応今日はここまでにして続きは明日にしてくれ」
エバンス「じゃあ、今夜は寿司屋に連れて行ってくれ」
私「おいしいところに行こう!」
ハナ「みんな、エバンスの話、全部録音したよ」
ケンジ「おっさん早口だからなあ」
イチロー「続きは俺の家でやろう!」
私「それじゃ皆、続きは明日の朝だ、9時から始めよう」
一同「うぉーす!」
私「(この元気は気味がわるいが、)解散!」
犬塚直史(いぬづかただし)
参照1
Former Foreign Minister Gareth Evans: Responsibility to Protect, Interview with YaleGlobal, accessed, Aug.9,
2012. Excerption, translation by Inuzuka. http://www.youtube.com/watch?v=akshf67dnAs
参照2
Gareth Evans on the evolution of the Responsibility to Protect, Keynote address at the Stanley Foundation
Jan. 17, 2012, http://www.youtube.com/watch?v=SjepYRGoJlY accessed Aug. 9, 2012, Excerption,
translation, incersion by Inuzuka.
一同「おぉーーっ」
私「(こいつら気合いだけは良いんだよなあ)」
エバンス
「なぜR2P保護する責任という理念が、今、この時代に出て来たのか?
正解はアトロシティー・クライムに対応するためだ。アトロシティー・クライムはジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪、民族浄化の4つだ。まずここをしっかり押さえて欲しい。
一言でいえば許し難い大量虐殺、民間人への攻撃や捕虜の拷問など大規模な戦争犯罪、特定の民族や地域住民に対する強制移住や組織的なレイプなどだが、4つの犯罪は国際法でしっかりと定義され、こうした罪を犯した個人に対して国際刑事裁判所(International Criminal Court, ICC)が管轄権を持っている。
この4つは人類の良心に衝撃を与えるような許し難い犯罪だ。しかし、アトロシティー・クライムがどんなに許し難い犯罪であっても、今まで国際社会は全く無関心だった。ウエストファリア条約以来360年間経つが、主権国家は“殺しのライセンス”をもっていたといえる。参照1
そしてこの状況は、人類がホロコーストを目撃した後でも、国連人権宣言採択の後でも変わらなかった。
ジェノサイド禁止条約が発効しても継続した。強制力、執行力に欠ける国際法に懐疑的な見方があるのはこうしたところからくる。
R2P保護する責任はこうした政治的な問題に対する政治的な答えだ。R2Pが登場する前、1970年代半ばからカンボジア、パキスタン、ウガンダで起こったアトロシティー・クライムが起こり、1990年代に入って、ルワンダ、スレプレニッツア、コソボなどでも起こった。
こうした犯罪を目の前にして先進国は「人道的介入」を主張した。これに対して発展途上国は「形を変えた植民地政策」であると主張し、地球上の南北の国々が認識を共有することはなかった。
こうした事情が変化したのは2000年の国連ミレニアムサミットでの、コフィ・アナン事務総長発言だ。彼は、「もし人道的介入が主権国家に受け入れられないなら、我々はルワンダやスレプレニッツアにどう対応するのか?」と、国際社会に挑戦したのだ。
このチャレンジを受け止めたのがカナダ政府で、“主権と介入に関する国際委員会(International Commission for State Sovereinty and Intervention, ICSSI)を組織し、2001年には「保護する責任」というレポートを提出してこれに答えた。私もこの委員会メンバーの一人だ。
ここでいう保護する責任という理念は、時代を画する3つの大きな貢献をしたと思う。
一つ目は、国家に対する考え方が完全に転換したことだ。大規模な人権侵害を止めることは「介入」ではなく「責任」だとした。
これは言葉の違いだけではない。
保護する責任に基づいて、アトロシティー・クライムを無くすことが国家の責任とするならば、これに失敗し続ける国家は、国家ではなくなる。主権国家として認められるには、そこに住んでいる人達を保護する責任を全うしなければならないということだ。「主権国家は責任を伴う」というのは過去にない全く新しい考え方だ。
二つ目の貢献は関係する当事者が世界規模に広がったことだ。
「介入する権利」では、支援の障害を乗り越えて人権活動団体が活動する、そしてこれを軍事介入などで支える等の形に限定されがちだ。しかし「当事国の責任」、そして「当事国が能力も意思も持たない場合は国際社会の責任」としたことで、国連加盟の全ての国家が当事者になった。
三つめの貢献は、政策の選択肢を広げたことだ。「介入」では、介入に至るまでの道筋も介入後の再発防止も視野に入らない。しかし、「責任」では、予防・対応・再建の3つのフェーズが視野に入る。すなわち、”予防フェーズ”
で、開発・監視など、”対応フェーズ”で、説得・仲裁・経済制裁・刑事訴追・軍事介入など、“再建フェーズ”で、治安機構改革・武装解除・元兵士の社会復帰などだ。長期的な視野をもった再建フェーズは開発に係わるから、ここで再建が予防につながる。
こうして、「人道的介入」を「保護する責任」理念に整理したことで、主権国家は主権国家たる責任を負うことが規定され、長期的な視野をもってアトロシティー・クライムの防止を考えることが可能となった」
私「ギャレス、一応今日はここまでにして続きは明日にしてくれ」
エバンス「じゃあ、今夜は寿司屋に連れて行ってくれ」
私「おいしいところに行こう!」
ハナ「みんな、エバンスの話、全部録音したよ」
ケンジ「おっさん早口だからなあ」
イチロー「続きは俺の家でやろう!」
私「それじゃ皆、続きは明日の朝だ、9時から始めよう」
一同「うぉーす!」
私「(この元気は気味がわるいが、)解散!」
犬塚直史(いぬづかただし)
参照1
Former Foreign Minister Gareth Evans: Responsibility to Protect, Interview with YaleGlobal, accessed, Aug.9,
2012. Excerption, translation by Inuzuka. http://www.youtube.com/watch?v=akshf67dnAs
参照2
Gareth Evans on the evolution of the Responsibility to Protect, Keynote address at the Stanley Foundation
Jan. 17, 2012, http://www.youtube.com/watch?v=SjepYRGoJlY accessed Aug. 9, 2012, Excerption,
translation, incersion by Inuzuka.
保護する責任とは - ①ギャレス・エバンス
私「今日のゲストはオーストラリア元外相のギャレス・エバンスだ。保護する責任理念を世に出した人だよ」
イチロー「やったー!つくった本人だね!」
ケンジ「元外務大臣にそんなことできるんだ!日本ではあり得ない」
ハナ「保護する責任って、現在進行形の話なのね!」
エバンス「キッズ地球防衛隊の皆さんおはよう!」
一同「おはようございます!」
エバンス「さっそくだが、どうして保護する責任(Responsibility To Protect,R2P)理念がこの時期に出てきたと思う?」
イチロー「超国家組織をつくるため!」
ハナ「地球を救うため!」
ケンジ「年金で暮らせない人が増えてきた!」
エバンス「全部はずれだ」
一同「えっ」
エバンス「悪いが君たちにはがっかりした」
一同「えーっ」
エバンス「しかも見込みがない。私は飛行機を一便早めて移動する」
一同「えーーーっ」
私「ギャレスががっかりするのは当たり前だ。R2P理念を育てようとして世界中を飛び回っている現役だ。無駄にする時間なんかない。君たちはなぜもっと準備しない?」
イチロー「楽しみにしてたのに」
私「私の講義は短い時間しかやってない」
イチロー「はい」
私「他の時間は何をしてる?自分で勉強しないのか?」
イチロー「…」
ケンジ「何だか予備校みたいになってきたなあ」
エバンス「ケンジ君は、日本の外務大臣を馬鹿にしている」
ケンジ「えーっ、聞いてたんだ!」
エバンス「君たちは日本語をしゃべるんだろ?」
ケンジ「はい」
エバンス「日本に立脚しないで仕事ができるのか?」
ケンジ「え…」
エバンス「日本の政治もオーストラリアと同じで欠点だらけだろうが、政治の可能性は大きい。自虐的になる大人もいるが、君はまねしなくていい」
ハナ「英語を勉強すればいいのよ」
エバンス「ハナちゃん、君は日本人だ」
ハナ「はい」
エバンス「英語を覚えて、海外で活躍してもそれは変わらないだろ」
ハナ「国際結婚したら?」
エバンス「国籍を変えても、パスポートが変わるだけだ。君がどこに行っても、何の分野で活躍しても、それと同時に君は日本エキスパートだということを覚えておくが良い。どんな有名シンク・タンクにも外国人の日本エキスパートがいるが、レベルが違う。ただし、君がしっかり勉強した時の話だ」
ハナ「…」
エバンス「中身のない英語なんてオウムと同じってことだ」
ハナ「…」
イチロー「エバンスのおっさんよ」
ケンジ「出ると思った」
イチロー「ここはあんたに負けとくぜ。だがね、地球防衛隊は必ず俺たちが作ってみせる!」
ハナ「複数形が自然になってきたわ」
エバンス「そうか。OK。それじゃあ講義を続けよう」
一同「えっ、一便早くするんじゃなかったの?」
エバンス「人生意気に感ず、ってことだ」
ケンジ「えらい日本語を知ってるな」
エバンス「良いコンセプトは世界中に同じ格言がある」
ハナ「やっぱり愛が世界を救うのよ!」
ケンジ「そういう問題じゃないだろ!」
私「よーし、ここでいったん休憩する。15分後にあつまってくれ」
つづく
犬塚直史(いぬづかただし)
イチロー「やったー!つくった本人だね!」
ケンジ「元外務大臣にそんなことできるんだ!日本ではあり得ない」
ハナ「保護する責任って、現在進行形の話なのね!」
エバンス「キッズ地球防衛隊の皆さんおはよう!」
一同「おはようございます!」
エバンス「さっそくだが、どうして保護する責任(Responsibility To Protect,R2P)理念がこの時期に出てきたと思う?」
イチロー「超国家組織をつくるため!」
ハナ「地球を救うため!」
ケンジ「年金で暮らせない人が増えてきた!」
エバンス「全部はずれだ」
一同「えっ」
エバンス「悪いが君たちにはがっかりした」
一同「えーっ」
エバンス「しかも見込みがない。私は飛行機を一便早めて移動する」
一同「えーーーっ」
私「ギャレスががっかりするのは当たり前だ。R2P理念を育てようとして世界中を飛び回っている現役だ。無駄にする時間なんかない。君たちはなぜもっと準備しない?」
イチロー「楽しみにしてたのに」
私「私の講義は短い時間しかやってない」
イチロー「はい」
私「他の時間は何をしてる?自分で勉強しないのか?」
イチロー「…」
ケンジ「何だか予備校みたいになってきたなあ」
エバンス「ケンジ君は、日本の外務大臣を馬鹿にしている」
ケンジ「えーっ、聞いてたんだ!」
エバンス「君たちは日本語をしゃべるんだろ?」
ケンジ「はい」
エバンス「日本に立脚しないで仕事ができるのか?」
ケンジ「え…」
エバンス「日本の政治もオーストラリアと同じで欠点だらけだろうが、政治の可能性は大きい。自虐的になる大人もいるが、君はまねしなくていい」
ハナ「英語を勉強すればいいのよ」
エバンス「ハナちゃん、君は日本人だ」
ハナ「はい」
エバンス「英語を覚えて、海外で活躍してもそれは変わらないだろ」
ハナ「国際結婚したら?」
エバンス「国籍を変えても、パスポートが変わるだけだ。君がどこに行っても、何の分野で活躍しても、それと同時に君は日本エキスパートだということを覚えておくが良い。どんな有名シンク・タンクにも外国人の日本エキスパートがいるが、レベルが違う。ただし、君がしっかり勉強した時の話だ」
ハナ「…」
エバンス「中身のない英語なんてオウムと同じってことだ」
ハナ「…」
イチロー「エバンスのおっさんよ」
ケンジ「出ると思った」
イチロー「ここはあんたに負けとくぜ。だがね、地球防衛隊は必ず俺たちが作ってみせる!」
ハナ「複数形が自然になってきたわ」
エバンス「そうか。OK。それじゃあ講義を続けよう」
一同「えっ、一便早くするんじゃなかったの?」
エバンス「人生意気に感ず、ってことだ」
ケンジ「えらい日本語を知ってるな」
エバンス「良いコンセプトは世界中に同じ格言がある」
ハナ「やっぱり愛が世界を救うのよ!」
ケンジ「そういう問題じゃないだろ!」
私「よーし、ここでいったん休憩する。15分後にあつまってくれ」
つづく
犬塚直史(いぬづかただし)
リビアと保護する責任②
保護する責任とは:ある国が自国民を保護する能力がない、あるいは保護する意思がない場合、そうした責任は国際社会が負うという新しい理念。
ケンジ「年金で暮らせない人は国際社会が助ける?」
私「いや」
ケンジ「介護もおまかせ?」
私「いーや」
ケンジ「医療も赤十字でぜんぶ無料!」
私「いーーーや」
ケンジ「いじめの問題に国連が介入する!」
イチロー「そうか!」
ハナ「英語の先生はアンジェリーナ・ジョリとか!」
私「(このガキ共の足を持って逆さに振り回してやりたいが、)皆の言っていることには、実に良いポイントがある」
一同「えーっ」
私「国の責任は何かってことを考えさせるんだな。(強いて言えば)」
イチロー「じゃあ、国で出来ない何をするんですか?」
私「人類の良心に衝撃を与えるような犯罪からの保護だよ。アトロシティー・クライムともいう。具体的にはジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪、そして民族浄化という4つの犯罪だ」
イチロー「それって、ホロコーストのこと?」
私「それも入っている」
ハナ「ルワンダもそうだわ」
イチロー「大量虐殺を止めさせるってこと?」
私「そうだ。放っておいたらルワンダの惨劇が再現しかねないような場合、国際社会が保護する責任を負うんだ」
ハナ「でも内政不干渉の原則で手が出せないんでしょ?」
私「だから保護する責任(Responsibility To Protect, R2P)という新しい理念が出て来たんだ。アトロシティー・クライムを予防し、対応し、そのような国を再建させるための理念だ」
ケンジ「会議で決めたって意味ないでしょう?」
私「いや、この理念が国際社会に認められたんだよ。2005年の国連サミット、そして翌年の安保理で承認された」
ケンジ「それで何かできるの?」
私「去年リビアのカダフィー政権が転覆したのを覚えているかい?」
ケンジ「何となく」
私「NATO軍が軍事介入を行ったんだよ」
ハナ「そんなこと勝手に出来ないでしょ?」
私「国連安保理の決議があったんだ」
ケンジ「安保理が決めれば何でもできるの?」
私「そうだ。ただし憲章からはみ出してはいけない」
ハナ「でも国連の大原則は内政不干渉でしょ?」
私「だから、この決議は“保護する責任決議”といわれているんだよ」
ケンジ「でも大虐殺が起こるかどうか分からないじゃないか」
イチロー「勝手に決めて入ってこられたら嫌だよな」
ハナ「それって侵略と同じじゃないの?」
アブデゥラマン・シャルガム「いや、そうではない。」
一同「うあーでたーっ、誰この人!」
私「リビア国連代表部、シャルガム元大使だ」
シャルがム「キッズ地球防衛隊の皆さんこんにちは」
一同「こ、こんにちわー。でもどうしてこんなに日本語上手なの?」
私「まあ、そのあたりは気にしなくて良い。自動翻訳機みたいなもんだ」
シャルガム「君たちは第二次世界大戦前のリビアでジェノサイドがあったのを知ってるか?」
一同「えっ?知りません」
シャルガム「私の国はイタリアに支配されていたんだよ。当初は人口が70万人だったが、イタリア支配が終わった時には半分になっていた」
イチロー「戦争?疫病?」
ハナ「移住?」
シャルガム「ガスだよ。独裁政権のイタリアはホロコーストと同じことをリビアでやったんだ。短期間でリビアの人口が半分になった。信じられるかい?」:参照1
一同「…」
シャルガム「去年の2月にも同じことが起ころうとしていた」
ケンジ「でもカダフィ大佐はリビア人でしょ?」
シャルガム「そうだ」
ケンジ「自国の人達を虐殺しないでしょう?」
シャルガム「彼はデモに参加した民間人、非暴力の反政府運動をやっている人達
をゴキブリ、と呼んだ」
ハナ「大統領のくせに、ひどい!」
シャルガム「自国民をゴキブリ、と呼ぶのは虐殺の前兆だ。ルワンダでもそうだった。しかもカダフィは反政府派の家を一軒一軒しらみつぶしに捜索するといった。自分の権力維持のためにか?リビア人を殺すのか?絶対に止めさせなければならない」
私「だからシャルガム大使は国連安保理で演説をして、国際社会の一刻も早い介入を要請したんだ。まだカダフィ政権の時にだよ」
シャルガム「イタリアにやられた時には、子供、女性、お年寄り、皆が本当に勇敢に戦ったんだ。こんどは絶対に止めたかった」
私「シャルガムの安保理での演説が、武力行使決議採択のきっかけになったと言われているんだ」
シャルガム「かといって、今のリビアには決して満足していないよ。ICRC赤十字国際委員会が何度も襲撃されているなんて最低だ。それだけ混乱しているんだ。でも、大量虐殺だけは絶対にとめなくちゃならないんだよ」
イチロー「シャルガムのおっさんよ」
ケンジ「出ると思った」
イチロー「あんたの勇気には敬服するぜ。だけど虐殺を止めさせる超国家組織は必ず俺たちがつくってみせる!」
ハナ「今回も複数形じゃない!」
シャルガム「頼むよ。皆に神様の守護がありますように」
ケンジ「行っちまった」
私「今日はこれでおしまいだ。次回からはシリーズで保護する責任の話をするよ」
ハナ「保護する責任ってそんなに大事なんですか?」
私「一番大切だ。超国家組織を構想することは、主権国家とは何かってことを考えることなんだ。保護する責任理念は、360年間続いて来た主権国家についての考え方を根底から見直すものなんだ」
ケンジ「先生、鼻血でてる」
ハナ「興奮しすぎかしら?」
ケンジ「何でそんなに興奮するんだろ?」
私「だから-、超国家組織を構想することは、360年間続いてきた今までの..ウプッ」
ハナ「冷たいおしぼりよ」
私「ありがとう、やさしいね」
ケンジ「ハナちゃん、それはトイレのぞうきんだぞ」
ハナ「あらっ?何か変だと思った」
私「あ、俺は顔を洗ってくる」
ハナ「先生ごめんなさーい!あー、行っちゃったわ」
イチロー「よーし、次回は保護する責任を根底から理解してやるぜ!」
参照1:At the Interview with Harold Hudson Channer, accessed 2012年8月7日 http://
abdurrahmanshalgham.com/video.html
ケンジ「年金で暮らせない人は国際社会が助ける?」
私「いや」
ケンジ「介護もおまかせ?」
私「いーや」
ケンジ「医療も赤十字でぜんぶ無料!」
私「いーーーや」
ケンジ「いじめの問題に国連が介入する!」
イチロー「そうか!」
ハナ「英語の先生はアンジェリーナ・ジョリとか!」
私「(このガキ共の足を持って逆さに振り回してやりたいが、)皆の言っていることには、実に良いポイントがある」
一同「えーっ」
私「国の責任は何かってことを考えさせるんだな。(強いて言えば)」
イチロー「じゃあ、国で出来ない何をするんですか?」
私「人類の良心に衝撃を与えるような犯罪からの保護だよ。アトロシティー・クライムともいう。具体的にはジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪、そして民族浄化という4つの犯罪だ」
イチロー「それって、ホロコーストのこと?」
私「それも入っている」
ハナ「ルワンダもそうだわ」
イチロー「大量虐殺を止めさせるってこと?」
私「そうだ。放っておいたらルワンダの惨劇が再現しかねないような場合、国際社会が保護する責任を負うんだ」
ハナ「でも内政不干渉の原則で手が出せないんでしょ?」
私「だから保護する責任(Responsibility To Protect, R2P)という新しい理念が出て来たんだ。アトロシティー・クライムを予防し、対応し、そのような国を再建させるための理念だ」
ケンジ「会議で決めたって意味ないでしょう?」
私「いや、この理念が国際社会に認められたんだよ。2005年の国連サミット、そして翌年の安保理で承認された」
ケンジ「それで何かできるの?」
私「去年リビアのカダフィー政権が転覆したのを覚えているかい?」
ケンジ「何となく」
私「NATO軍が軍事介入を行ったんだよ」
ハナ「そんなこと勝手に出来ないでしょ?」
私「国連安保理の決議があったんだ」
ケンジ「安保理が決めれば何でもできるの?」
私「そうだ。ただし憲章からはみ出してはいけない」
ハナ「でも国連の大原則は内政不干渉でしょ?」
私「だから、この決議は“保護する責任決議”といわれているんだよ」
ケンジ「でも大虐殺が起こるかどうか分からないじゃないか」
イチロー「勝手に決めて入ってこられたら嫌だよな」
ハナ「それって侵略と同じじゃないの?」
アブデゥラマン・シャルガム「いや、そうではない。」
一同「うあーでたーっ、誰この人!」
私「リビア国連代表部、シャルガム元大使だ」
シャルがム「キッズ地球防衛隊の皆さんこんにちは」
一同「こ、こんにちわー。でもどうしてこんなに日本語上手なの?」
私「まあ、そのあたりは気にしなくて良い。自動翻訳機みたいなもんだ」
シャルガム「君たちは第二次世界大戦前のリビアでジェノサイドがあったのを知ってるか?」
一同「えっ?知りません」
シャルガム「私の国はイタリアに支配されていたんだよ。当初は人口が70万人だったが、イタリア支配が終わった時には半分になっていた」
イチロー「戦争?疫病?」
ハナ「移住?」
シャルガム「ガスだよ。独裁政権のイタリアはホロコーストと同じことをリビアでやったんだ。短期間でリビアの人口が半分になった。信じられるかい?」:参照1
一同「…」
シャルガム「去年の2月にも同じことが起ころうとしていた」
ケンジ「でもカダフィ大佐はリビア人でしょ?」
シャルガム「そうだ」
ケンジ「自国の人達を虐殺しないでしょう?」
シャルガム「彼はデモに参加した民間人、非暴力の反政府運動をやっている人達
をゴキブリ、と呼んだ」
ハナ「大統領のくせに、ひどい!」
シャルガム「自国民をゴキブリ、と呼ぶのは虐殺の前兆だ。ルワンダでもそうだった。しかもカダフィは反政府派の家を一軒一軒しらみつぶしに捜索するといった。自分の権力維持のためにか?リビア人を殺すのか?絶対に止めさせなければならない」
私「だからシャルガム大使は国連安保理で演説をして、国際社会の一刻も早い介入を要請したんだ。まだカダフィ政権の時にだよ」
シャルガム「イタリアにやられた時には、子供、女性、お年寄り、皆が本当に勇敢に戦ったんだ。こんどは絶対に止めたかった」
私「シャルガムの安保理での演説が、武力行使決議採択のきっかけになったと言われているんだ」
シャルガム「かといって、今のリビアには決して満足していないよ。ICRC赤十字国際委員会が何度も襲撃されているなんて最低だ。それだけ混乱しているんだ。でも、大量虐殺だけは絶対にとめなくちゃならないんだよ」
イチロー「シャルガムのおっさんよ」
ケンジ「出ると思った」
イチロー「あんたの勇気には敬服するぜ。だけど虐殺を止めさせる超国家組織は必ず俺たちがつくってみせる!」
ハナ「今回も複数形じゃない!」
シャルガム「頼むよ。皆に神様の守護がありますように」
ケンジ「行っちまった」
私「今日はこれでおしまいだ。次回からはシリーズで保護する責任の話をするよ」
ハナ「保護する責任ってそんなに大事なんですか?」
私「一番大切だ。超国家組織を構想することは、主権国家とは何かってことを考えることなんだ。保護する責任理念は、360年間続いて来た主権国家についての考え方を根底から見直すものなんだ」
ケンジ「先生、鼻血でてる」
ハナ「興奮しすぎかしら?」
ケンジ「何でそんなに興奮するんだろ?」
私「だから-、超国家組織を構想することは、360年間続いてきた今までの..ウプッ」
ハナ「冷たいおしぼりよ」
私「ありがとう、やさしいね」
ケンジ「ハナちゃん、それはトイレのぞうきんだぞ」
ハナ「あらっ?何か変だと思った」
私「あ、俺は顔を洗ってくる」
ハナ「先生ごめんなさーい!あー、行っちゃったわ」
イチロー「よーし、次回は保護する責任を根底から理解してやるぜ!」
参照1:At the Interview with Harold Hudson Channer, accessed 2012年8月7日 http://
abdurrahmanshalgham.com/video.html
リビアと保護する責任①
昨日の朝6時45分、ロケット砲と手榴弾で武装した男にリビアのICRC赤十字国際委員会が襲われた。
当時7人いたスタッフは無事だったが、建物は大きく破壊された。
リビアでICRC赤十字国際委員会が襲撃されるのはこの3ヶ月間で5回目。
これを受けてICRCはリビアのミンサラとベンガジから一時撤収する。
ハナ「えー、どうして?赤十字は医療活動をしているだけじゃない!」
私「その通りだよ」
ハナ「怪我している人や病気の人を助けてるだけでしょ?」
私「そうだ」
ハナ「無料でやっているんでしょう?」
私「そうだよ」
ハナ「それなのに、どうして攻撃しなきゃいけないの?」
私「わからない」
ハナ「政治や宗教とは一切関係ないんでしょう?」
私「そうだ」
ハナ「なぜ攻撃するの?」
私「わからない。わかるのは、この3ヶ月で5回攻撃されたっていうことだ」
ハナ「撤収したら患者さんは死んじゃうじゃない!」
私「そうかもしれない」
ハナ「何よそれ!私はそんなの絶対許さないわよ!」
ケンジ「泣かなくてもいいだろ!」
私「紛争地での医療活動はそういうものだ。危険を冒しても残って続けるか、一時撤収するか、というギリギリの判断を迫られる。撤収すれば活動は後退する。
続ければスタッフの命の問題になる」
ハナ「どちらかしかない..」
私「そうだ。現場で医療活動をしているICRCにはどちらかしかない。目の前の被
害者を救うことはできるが、紛争の原因を取り除くことはできない」
ハナ「原因を取り除くのはだれの仕事なの?」
私「政治だ」
イチロー「おーっ、俺は医者じゃなくて政治家になるぞ!」
ケンジ「おまえ何か軽いんだよなあ」
私「いや、軽くていいんだ。だからキッズ地球防衛隊に皆が期待してるんだよ」
ハナ「先生、今日は何か別人ね。コブラツイストをしてたのと違う人みたい」
私「えっ、私がそんなことしたか?」
ハナ「ヘッドロックもした」
私「いや、えーっと、今日はリビアと保護する責任の話だったんだ。次回に持ち
越すからね。今日はこれでおしまいにするよ」
つづく
犬塚直史(いぬづかただし)
当時7人いたスタッフは無事だったが、建物は大きく破壊された。
リビアでICRC赤十字国際委員会が襲撃されるのはこの3ヶ月間で5回目。
これを受けてICRCはリビアのミンサラとベンガジから一時撤収する。
ハナ「えー、どうして?赤十字は医療活動をしているだけじゃない!」
私「その通りだよ」
ハナ「怪我している人や病気の人を助けてるだけでしょ?」
私「そうだ」
ハナ「無料でやっているんでしょう?」
私「そうだよ」
ハナ「それなのに、どうして攻撃しなきゃいけないの?」
私「わからない」
ハナ「政治や宗教とは一切関係ないんでしょう?」
私「そうだ」
ハナ「なぜ攻撃するの?」
私「わからない。わかるのは、この3ヶ月で5回攻撃されたっていうことだ」
ハナ「撤収したら患者さんは死んじゃうじゃない!」
私「そうかもしれない」
ハナ「何よそれ!私はそんなの絶対許さないわよ!」
ケンジ「泣かなくてもいいだろ!」
私「紛争地での医療活動はそういうものだ。危険を冒しても残って続けるか、一時撤収するか、というギリギリの判断を迫られる。撤収すれば活動は後退する。
続ければスタッフの命の問題になる」
ハナ「どちらかしかない..」
私「そうだ。現場で医療活動をしているICRCにはどちらかしかない。目の前の被
害者を救うことはできるが、紛争の原因を取り除くことはできない」
ハナ「原因を取り除くのはだれの仕事なの?」
私「政治だ」
イチロー「おーっ、俺は医者じゃなくて政治家になるぞ!」
ケンジ「おまえ何か軽いんだよなあ」
私「いや、軽くていいんだ。だからキッズ地球防衛隊に皆が期待してるんだよ」
ハナ「先生、今日は何か別人ね。コブラツイストをしてたのと違う人みたい」
私「えっ、私がそんなことしたか?」
ハナ「ヘッドロックもした」
私「いや、えーっと、今日はリビアと保護する責任の話だったんだ。次回に持ち
越すからね。今日はこれでおしまいにするよ」
つづく
犬塚直史(いぬづかただし)
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