ページ

UNEPS③ キッズの戦略

私「さて、戦略とやらを聞こうじゃないか」


ハナ「私が国連事務総長になります」

「は?」

「まず私が国連事務総長になります」

「ほー」

「イチロー君が日本の総理大臣になります」

「おー?」

「ケンちゃんがアメリカの大統領になります」

「ほー」

「そして3人が力を合わせればUNEPSは必ず実現するはずです」

「ほー」

「ほー、じゃなくて何か言って下さい」

「うん。まずどうやってキッズが事務総長と総理大臣と大統領になるんだね?」

「それは先生にお願いします」

「え?」

「先生はこのストーリーの作者ですね?」

「そうだ」

「自動翻訳機をつくったり、歴史上の人物を教室に呼んだりできますね?」

「まあね」

「超小型の自動翻訳機とタイムマシーンの改良版をつくってください」

「えーっと」

「できないんですか?」

「まあ、何でもできるが、キッズ戦略に一つひっかかるところがある」

「なんですか?」

「政治権力をつかって上からUNEPSを設置しようとしている点だ。UNEPSができる。本当に世界の警察ができる。そして各国の軍備を縮小して行く。そうだね?」


「先生、UNEPSってそういうものですね?」

「そうだ。しかしそれが簡単に実現すれば、UNEPSという暴力装置とこれを運用する政治機構は絶対的な権力をもつことになる。一歩間違えれば世界は強制収容所だらけだ」

「先生」

「なんだね」

「今の国連にUNEPSは絶対に必要ですね?」

「そうだ」

「スーダンやシリアでは一刻も早くUNEPSが必要ですね?」

「そうだ」

「パレスチナにも展開できるかもしれませんね?」

「可能性はある」

「UNEPSが沖縄にできたらアジア太平洋の緊張緩和になりますね?」

「かもしれない」

「だったら上からでも下からでも、できれば良いじゃないですか」

「そうだ。しかしできて今よりも事態が悪化するかもしれん。似て非なるものになるかもしれん。意図が良くても結果が悪いことがある。肝心なのはどう使われるかだ」

「先生、いざ実現しそうになると尻込みするんですか?」

「怖いだけだ。UNEPSのようなものに世論がまったく興味をもたないまま作ってしまえば、世界全体が旧ソ連や北朝鮮のような状態になりかねない」

「先生、UNEPSはたった1万5千の部隊からスタートするんですよね」

「そうだ」

「それなら走りながら考えましょう」

「たとえ1万5千でも、軍事組織というものはあっという間に膨張する」

イチロー「先生のおっさんよ」

ケンジ「でると思った」

イチロー「俺たちは絶対カダフィーにはならないぜ」

私「権力をもつと人間は変わる。お前なんか一番変わりそうだ」

ハナ「なら、ヒットラーを生み出す事ができない仕組みをつくればいいのよ」

「うん。本来、それが戦略の肝心なところだな」

「先生。とにかくやらせて下さい。私達が大人になっても目標がずれるだけです。今のうちにやらせて下さい。理論で仕組みなんかできません。PKOだってそうじゃない。国連憲章に書いていないものがハマーショルドさん達のリーダーシップで出来たんでしょう?理屈はあとからついてきます」

「そうとも言える」

「走りながら考えます。先生も手伝ってください」

「そんな話に乗れるわけがないだろう!国益を超える警察機能を国連につくるっていうのは、国家を超える組織だ。国家を超える理念が成熟しなければできない。今の政治ではできない。経済でもできない。まして軍事力でもできない。グローバル社会を支える価値観を多くの人が共有しなければ暴走するんだ」

「先生!」

「なんだ」

「先生がいつも言っているのは嘘ですか?」

「なんの話だ?」

「戦争の反対は平和ではない..」

私「..」

キッズ「戦争の反対は創造だ!」

「そりゃそうだが、孵化には長い時間がかかるんだ」

ハナ「先生、今日は私達がゲストを呼んでいます」

私「こら勝手にタイムマシーンを使うな!」

ハナ「今日のゲストは岡本太郎さんです」

私「えっ」

岡本「先生よ、あんたは飛び込むのが怖いんだろ」

私「怖い」

「失敗するのも嫌だろ」

「いやだ」

「UNEPSを成功させたいんだろう」

「成功させたい」

「だがキッズのやり方では失敗すると思う」

「間違いなく失敗する」

「ならやったら良い。怖くて失敗しそうな方をやってりゃ良いじゃないか。あばよ」

ケンジ「あー、おっさん行っちまった」

私「(そうだ。こんな話は理屈じゃねえんだよな)よしわかった。キッズの戦略はそれでいい。次回までに戦術をもってこい。手伝うかどうかその時に決める」

キッズ「おー!」



犬塚直史