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リビアと保護する責任②

保護する責任とは:ある国が自国民を保護する能力がない、あるいは保護する意思がない場合、そうした責任は国際社会が負うという新しい理念。

ケンジ「年金で暮らせない人は国際社会が助ける?」

私「いや」

ケンジ「介護もおまかせ?」

私「いーや」

ケンジ「医療も赤十字でぜんぶ無料!」

私「いーーーや」

ケンジ「いじめの問題に国連が介入する!」

イチロー「そうか!」

ハナ「英語の先生はアンジェリーナ・ジョリとか!」

私「(このガキ共の足を持って逆さに振り回してやりたいが、)皆の言っていることには、実に良いポイントがある」

一同「えーっ」

私「国の責任は何かってことを考えさせるんだな。(強いて言えば)」

イチロー「じゃあ、国で出来ない何をするんですか?」

私「人類の良心に衝撃を与えるような犯罪からの保護だよ。アトロシティー・クライムともいう。具体的にはジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪、そして民族浄化という4つの犯罪だ」

イチロー「それって、ホロコーストのこと?」

私「それも入っている」

ハナ「ルワンダもそうだわ」

イチロー「大量虐殺を止めさせるってこと?」

私「そうだ。放っておいたらルワンダの惨劇が再現しかねないような場合、国際社会が保護する責任を負うんだ」

ハナ「でも内政不干渉の原則で手が出せないんでしょ?」

私「だから保護する責任(Responsibility To Protect, R2P)という新しい理念が出て来たんだ。アトロシティー・クライムを予防し、対応し、そのような国を再建させるための理念だ」

ケンジ「会議で決めたって意味ないでしょう?」

私「いや、この理念が国際社会に認められたんだよ。2005年の国連サミット、そして翌年の安保理で承認された」

ケンジ「それで何かできるの?」

私「去年リビアのカダフィー政権が転覆したのを覚えているかい?」

ケンジ「何となく」

私「NATO軍が軍事介入を行ったんだよ」

ハナ「そんなこと勝手に出来ないでしょ?」

私「国連安保理の決議があったんだ」

ケンジ「安保理が決めれば何でもできるの?」

私「そうだ。ただし憲章からはみ出してはいけない」

ハナ「でも国連の大原則は内政不干渉でしょ?」

私「だから、この決議は“保護する責任決議”といわれているんだよ」

ケンジ「でも大虐殺が起こるかどうか分からないじゃないか」

イチロー「勝手に決めて入ってこられたら嫌だよな」

ハナ「それって侵略と同じじゃないの?」

アブデゥラマン・シャルガム「いや、そうではない。」

一同「うあーでたーっ、誰この人!」

私「リビア国連代表部、シャルガム元大使だ」

シャルがム「キッズ地球防衛隊の皆さんこんにちは」

一同「こ、こんにちわー。でもどうしてこんなに日本語上手なの?」

私「まあ、そのあたりは気にしなくて良い。自動翻訳機みたいなもんだ」

シャルガム「君たちは第二次世界大戦前のリビアでジェノサイドがあったのを知ってるか?」

一同「えっ?知りません」

シャルガム「私の国はイタリアに支配されていたんだよ。当初は人口が70万人だったが、イタリア支配が終わった時には半分になっていた」

イチロー「戦争?疫病?」

ハナ「移住?」

シャルガム「ガスだよ。独裁政権のイタリアはホロコーストと同じことをリビアでやったんだ。短期間でリビアの人口が半分になった。信じられるかい?」:参照1

一同「…」

シャルガム「去年の2月にも同じことが起ころうとしていた」

ケンジ「でもカダフィ大佐はリビア人でしょ?」

シャルガム「そうだ」

ケンジ「自国の人達を虐殺しないでしょう?」

シャルガム「彼はデモに参加した民間人、非暴力の反政府運動をやっている人達
をゴキブリ、と呼んだ」


ハナ「大統領のくせに、ひどい!」

シャルガム「自国民をゴキブリ、と呼ぶのは虐殺の前兆だ。ルワンダでもそうだった。しかもカダフィは反政府派の家を一軒一軒しらみつぶしに捜索するといった。自分の権力維持のためにか?リビア人を殺すのか?絶対に止めさせなければならない」

私「だからシャルガム大使は国連安保理で演説をして、国際社会の一刻も早い介入を要請したんだ。まだカダフィ政権の時にだよ」

シャルガム「イタリアにやられた時には、子供、女性、お年寄り、皆が本当に勇敢に戦ったんだ。こんどは絶対に止めたかった」

私「シャルガムの安保理での演説が、武力行使決議採択のきっかけになったと言われているんだ」

シャルガム「かといって、今のリビアには決して満足していないよ。ICRC赤十字国際委員会が何度も襲撃されているなんて最低だ。それだけ混乱しているんだ。でも、大量虐殺だけは絶対にとめなくちゃならないんだよ」

イチロー「シャルガムのおっさんよ」

ケンジ「出ると思った」

イチロー「あんたの勇気には敬服するぜ。だけど虐殺を止めさせる超国家組織は必ず俺たちがつくってみせる!」

ハナ「今回も複数形じゃない!」

シャルガム「頼むよ。皆に神様の守護がありますように」

ケンジ「行っちまった」

私「今日はこれでおしまいだ。次回からはシリーズで保護する責任の話をするよ」

ハナ「保護する責任ってそんなに大事なんですか?」

私「一番大切だ。超国家組織を構想することは、主権国家とは何かってことを考えることなんだ。保護する責任理念は、360年間続いて来た主権国家についての考え方を根底から見直すものなんだ」

ケンジ「先生、鼻血でてる」

ハナ「興奮しすぎかしら?」

ケンジ「何でそんなに興奮するんだろ?」

私「だから-、超国家組織を構想することは、360年間続いてきた今までの..ウプッ」

ハナ「冷たいおしぼりよ」

私「ありがとう、やさしいね」

ケンジ「ハナちゃん、それはトイレのぞうきんだぞ」

ハナ「あらっ?何か変だと思った」

私「あ、俺は顔を洗ってくる」

ハナ「先生ごめんなさーい!あー、行っちゃったわ」

イチロー「よーし、次回は保護する責任を根底から理解してやるぜ!」



参照1:At the Interview with Harold Hudson Channer, accessed 2012年8月7日 http://
abdurrahmanshalgham.com/video.html