ページ

キッズ地球防衛隊❶、その日イチローの家で

イチロー「結局大人達はまだ本題に入ってない。戦争が終わった直後は本気だったけど、あとは違う所をグルグル回ってる」

ハナ「でも、ICRC赤十字国際委員会、MSF国境なき医師団、Peacekeeping国連の平和維持活動の話なんか凄かったなあ。他にも私達の知らない活動が五万とあるのよ」

イチロー「それはみんな現場の活動だろ?」

ハナ「そう」

イチロー「“目の前の患者を救うことは出来るが、紛争の原因をなくすことはできない”っていってたじゃないか」

ハナ「だからICC国際刑事裁判所とかR2P保護する責任とか出てきたんじゃない?“許し難い犯罪”に直面している人達を“保護する”っていうことだけを考えれば、間違いはないわ!」

ケンジ「だけ、を考えるってのが怪しいんだよ」

イチロー「そう、リビアがそうだ。結局あそこまで行くと、保護するだけ、というのは会議室で言うことで、現場ではカダフィー政権の転覆まで行かないと終わらない」

ケンジ「だから“保護する責任”ってのは怪しいんだ」

ハナ「怪しいんじゃなくて、だから21世紀のピースキーピンングが必要だ、必ず俺たちがやってみせるぜって、啖呵切ったでしょ!」

ケンジ「いや、発展途上国が“形を変えた植民地政策”だっていうのも一理あるってことだ」

ハナ「それは違う!主権国家の中では何をしてもいいけど、アトロシティー・クライムはだめよ、ってことでしょう?結局アトロシティー・クライムがだめっていうのは、法律で決めるまでもないってことよ。侵略とか奴隷売買とかもその内はいってくるわよ。こんな基本的な人権侵害を止められない国に“内政不干渉”はいえないってこと」

イチロー「だから、人類共通の敵であるアトロシティー・クライムを止めるためなら、南北問題を超えて国連でも合意されたんだ。この辺は明日の講義で詳しくやるはずだ」

ケンジ「興味津々ってとこだな」

犬塚直史(いぬづかただし)

保護する責任とは - ②ギャレス・エバンス

私「授業再開する」
一同「おぉーーっ」

私「(こいつら気合いだけは良いんだよなあ)」

エバンス

「なぜR2P保護する責任という理念が、今、この時代に出て来たのか?
正解はアトロシティー・クライムに対応するためだ。アトロシティー・クライムはジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪、民族浄化の4つだ。まずここをしっかり押さえて欲しい。

一言でいえば許し難い大量虐殺、民間人への攻撃や捕虜の拷問など大規模な戦争犯罪、特定の民族や地域住民に対する強制移住や組織的なレイプなどだが、4つの犯罪は国際法でしっかりと定義され、こうした罪を犯した個人に対して国際刑事裁判所(International Criminal Court, ICC)が管轄権を持っている。

この4つは人類の良心に衝撃を与えるような許し難い犯罪だ。しかし、アトロシティー・クライムがどんなに許し難い犯罪であっても、今まで国際社会は全く無関心だった。ウエストファリア条約以来360年間経つが、主権国家は“殺しのライセンス”をもっていたといえる。参照1
そしてこの状況は、人類がホロコーストを目撃した後でも、国連人権宣言採択の後でも変わらなかった。
ジェノサイド禁止条約が発効しても継続した。強制力、執行力に欠ける国際法に懐疑的な見方があるのはこうしたところからくる。
R2P保護する責任はこうした政治的な問題に対する政治的な答えだ。R2Pが登場する前、1970年代半ばからカンボジア、パキスタン、ウガンダで起こったアトロシティー・クライムが起こり、1990年代に入って、ルワンダ、スレプレニッツア、コソボなどでも起こった。

こうした犯罪を目の前にして先進国は「人道的介入」を主張した。これに対して発展途上国は「形を変えた植民地政策」であると主張し、地球上の南北の国々が認識を共有することはなかった。

こうした事情が変化したのは2000年の国連ミレニアムサミットでの、コフィ・アナン事務総長発言だ。彼は、「もし人道的介入が主権国家に受け入れられないなら、我々はルワンダやスレプレニッツアにどう対応するのか?」と、国際社会に挑戦したのだ。
このチャレンジを受け止めたのがカナダ政府で、“主権と介入に関する国際委員会(International Commission for State Sovereinty and Intervention, ICSSI)を組織し、2001年には「保護する責任」というレポートを提出してこれに答えた。私もこの委員会メンバーの一人だ。
ここでいう保護する責任という理念は、時代を画する3つの大きな貢献をしたと思う。
一つ目は、国家に対する考え方が完全に転換したことだ。大規模な人権侵害を止めることは「介入」ではなく「責任」だとした。
これは言葉の違いだけではない。
保護する責任に基づいて、アトロシティー・クライムを無くすことが国家の責任とするならば、これに失敗し続ける国家は、国家ではなくなる。主権国家として認められるには、そこに住んでいる人達を保護する責任を全うしなければならないということだ。「主権国家は責任を伴う」というのは過去にない全く新しい考え方だ。
二つ目の貢献は関係する当事者が世界規模に広がったことだ。
「介入する権利」では、支援の障害を乗り越えて人権活動団体が活動する、そしてこれを軍事介入などで支える等の形に限定されがちだ。しかし「当事国の責任」、そして「当事国が能力も意思も持たない場合は国際社会の責任」としたことで、国連加盟の全ての国家が当事者になった。
三つめの貢献は、政策の選択肢を広げたことだ。「介入」では、介入に至るまでの道筋も介入後の再発防止も視野に入らない。しかし、「責任」では、予防・対応・再建の3つのフェーズが視野に入る。すなわち、”予防フェーズ”
で、開発・監視など、”対応フェーズ”で、説得・仲裁・経済制裁・刑事訴追・軍事介入など、“再建フェーズ”で、治安機構改革・武装解除・元兵士の社会復帰などだ。長期的な視野をもった再建フェーズは開発に係わるから、ここで再建が予防につながる。


こうして、「人道的介入」を「保護する責任」理念に整理したことで、主権国家は主権国家たる責任を負うことが規定され、長期的な視野をもってアトロシティー・クライムの防止を考えることが可能となった」

私「ギャレス、一応今日はここまでにして続きは明日にしてくれ」
エバンス「じゃあ、今夜は寿司屋に連れて行ってくれ」
私「おいしいところに行こう!」
ハナ「みんな、エバンスの話、全部録音したよ」
ケンジ「おっさん早口だからなあ」
イチロー「続きは俺の家でやろう!」
私「それじゃ皆、続きは明日の朝だ、9時から始めよう」
一同「うぉーす!」

私「(この元気は気味がわるいが、)解散!」


犬塚直史(いぬづかただし)


参照1
Former Foreign Minister Gareth Evans: Responsibility to Protect, Interview with YaleGlobal, accessed, Aug.9,
2012. Excerption, translation by Inuzuka.
http://www.youtube.com/watch?v=akshf67dnAs

参照2
Gareth Evans on the evolution of the Responsibility to Protect, Keynote address at the Stanley Foundation
Jan. 17, 2012, http://www.youtube.com/watch?v=SjepYRGoJlY accessed Aug. 9, 2012, Excerption,
translation, incersion by Inuzuka.

保護する責任とは - ①ギャレス・エバンス

私「今日のゲストはオーストラリア元外相のギャレス・エバンスだ。保護する責任理念を世に出した人だよ」

イチロー「やったー!つくった本人だね!」
ケンジ「元外務大臣にそんなことできるんだ!日本ではあり得ない」
ハナ「保護する責任って、現在進行形の話なのね!」
エバンス「キッズ地球防衛隊の皆さんおはよう!」
一同「おはようございます!」
エバンス「さっそくだが、どうして保護する責任(Responsibility To Protect,R2P)理念がこの時期に出てきたと思う?」

イチロー「超国家組織をつくるため!」

ハナ「地球を救うため!」

ケンジ「年金で暮らせない人が増えてきた!」

エバンス「全部はずれだ」

一同「えっ」

エバンス「悪いが君たちにはがっかりした」

一同「えーっ」

エバンス「しかも見込みがない。私は飛行機を一便早めて移動する」

一同「えーーーっ」

私「ギャレスががっかりするのは当たり前だ。R2P理念を育てようとして世界中を飛び回っている現役だ。無駄にする時間なんかない。君たちはなぜもっと準備しない?」

イチロー「楽しみにしてたのに」

私「私の講義は短い時間しかやってない」

イチロー「はい」

私「他の時間は何をしてる?自分で勉強しないのか?」

イチロー「…」

ケンジ「何だか予備校みたいになってきたなあ」

エバンス「ケンジ君は、日本の外務大臣を馬鹿にしている」

ケンジ「えーっ、聞いてたんだ!」

エバンス「君たちは日本語をしゃべるんだろ?」

ケンジ「はい」

エバンス「日本に立脚しないで仕事ができるのか?」

ケンジ「え…」

エバンス「日本の政治もオーストラリアと同じで欠点だらけだろうが、政治の可能性は大きい。自虐的になる大人もいるが、君はまねしなくていい」

ハナ「英語を勉強すればいいのよ」

エバンス「ハナちゃん、君は日本人だ」

ハナ「はい」

エバンス「英語を覚えて、海外で活躍してもそれは変わらないだろ」

ハナ「国際結婚したら?」

エバンス「国籍を変えても、パスポートが変わるだけだ。君がどこに行っても、何の分野で活躍しても、それと同時に君は日本エキスパートだということを覚えておくが良い。どんな有名シンク・タンクにも外国人の日本エキスパートがいるが、レベルが違う。ただし、君がしっかり勉強した時の話だ」

ハナ「…」


エバンス「中身のない英語なんてオウムと同じってことだ」

ハナ「…」

イチロー「エバンスのおっさんよ」

ケンジ「出ると思った」

イチロー「ここはあんたに負けとくぜ。だがね、地球防衛隊は必ず俺たちが作ってみせる!」

ハナ「複数形が自然になってきたわ」

エバンス「そうか。OK。それじゃあ講義を続けよう」

一同「えっ、一便早くするんじゃなかったの?」

エバンス「人生意気に感ず、ってことだ」

ケンジ「えらい日本語を知ってるな」

エバンス「良いコンセプトは世界中に同じ格言がある」

ハナ「やっぱり愛が世界を救うのよ!」

ケンジ「そういう問題じゃないだろ!」

私「よーし、ここでいったん休憩する。15分後にあつまってくれ」

つづく

犬塚直史(いぬづかただし)

リビアと保護する責任②

保護する責任とは:ある国が自国民を保護する能力がない、あるいは保護する意思がない場合、そうした責任は国際社会が負うという新しい理念。

ケンジ「年金で暮らせない人は国際社会が助ける?」

私「いや」

ケンジ「介護もおまかせ?」

私「いーや」

ケンジ「医療も赤十字でぜんぶ無料!」

私「いーーーや」

ケンジ「いじめの問題に国連が介入する!」

イチロー「そうか!」

ハナ「英語の先生はアンジェリーナ・ジョリとか!」

私「(このガキ共の足を持って逆さに振り回してやりたいが、)皆の言っていることには、実に良いポイントがある」

一同「えーっ」

私「国の責任は何かってことを考えさせるんだな。(強いて言えば)」

イチロー「じゃあ、国で出来ない何をするんですか?」

私「人類の良心に衝撃を与えるような犯罪からの保護だよ。アトロシティー・クライムともいう。具体的にはジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪、そして民族浄化という4つの犯罪だ」

イチロー「それって、ホロコーストのこと?」

私「それも入っている」

ハナ「ルワンダもそうだわ」

イチロー「大量虐殺を止めさせるってこと?」

私「そうだ。放っておいたらルワンダの惨劇が再現しかねないような場合、国際社会が保護する責任を負うんだ」

ハナ「でも内政不干渉の原則で手が出せないんでしょ?」

私「だから保護する責任(Responsibility To Protect, R2P)という新しい理念が出て来たんだ。アトロシティー・クライムを予防し、対応し、そのような国を再建させるための理念だ」

ケンジ「会議で決めたって意味ないでしょう?」

私「いや、この理念が国際社会に認められたんだよ。2005年の国連サミット、そして翌年の安保理で承認された」

ケンジ「それで何かできるの?」

私「去年リビアのカダフィー政権が転覆したのを覚えているかい?」

ケンジ「何となく」

私「NATO軍が軍事介入を行ったんだよ」

ハナ「そんなこと勝手に出来ないでしょ?」

私「国連安保理の決議があったんだ」

ケンジ「安保理が決めれば何でもできるの?」

私「そうだ。ただし憲章からはみ出してはいけない」

ハナ「でも国連の大原則は内政不干渉でしょ?」

私「だから、この決議は“保護する責任決議”といわれているんだよ」

ケンジ「でも大虐殺が起こるかどうか分からないじゃないか」

イチロー「勝手に決めて入ってこられたら嫌だよな」

ハナ「それって侵略と同じじゃないの?」

アブデゥラマン・シャルガム「いや、そうではない。」

一同「うあーでたーっ、誰この人!」

私「リビア国連代表部、シャルガム元大使だ」

シャルがム「キッズ地球防衛隊の皆さんこんにちは」

一同「こ、こんにちわー。でもどうしてこんなに日本語上手なの?」

私「まあ、そのあたりは気にしなくて良い。自動翻訳機みたいなもんだ」

シャルガム「君たちは第二次世界大戦前のリビアでジェノサイドがあったのを知ってるか?」

一同「えっ?知りません」

シャルガム「私の国はイタリアに支配されていたんだよ。当初は人口が70万人だったが、イタリア支配が終わった時には半分になっていた」

イチロー「戦争?疫病?」

ハナ「移住?」

シャルガム「ガスだよ。独裁政権のイタリアはホロコーストと同じことをリビアでやったんだ。短期間でリビアの人口が半分になった。信じられるかい?」:参照1

一同「…」

シャルガム「去年の2月にも同じことが起ころうとしていた」

ケンジ「でもカダフィ大佐はリビア人でしょ?」

シャルガム「そうだ」

ケンジ「自国の人達を虐殺しないでしょう?」

シャルガム「彼はデモに参加した民間人、非暴力の反政府運動をやっている人達
をゴキブリ、と呼んだ」


ハナ「大統領のくせに、ひどい!」

シャルガム「自国民をゴキブリ、と呼ぶのは虐殺の前兆だ。ルワンダでもそうだった。しかもカダフィは反政府派の家を一軒一軒しらみつぶしに捜索するといった。自分の権力維持のためにか?リビア人を殺すのか?絶対に止めさせなければならない」

私「だからシャルガム大使は国連安保理で演説をして、国際社会の一刻も早い介入を要請したんだ。まだカダフィ政権の時にだよ」

シャルガム「イタリアにやられた時には、子供、女性、お年寄り、皆が本当に勇敢に戦ったんだ。こんどは絶対に止めたかった」

私「シャルガムの安保理での演説が、武力行使決議採択のきっかけになったと言われているんだ」

シャルガム「かといって、今のリビアには決して満足していないよ。ICRC赤十字国際委員会が何度も襲撃されているなんて最低だ。それだけ混乱しているんだ。でも、大量虐殺だけは絶対にとめなくちゃならないんだよ」

イチロー「シャルガムのおっさんよ」

ケンジ「出ると思った」

イチロー「あんたの勇気には敬服するぜ。だけど虐殺を止めさせる超国家組織は必ず俺たちがつくってみせる!」

ハナ「今回も複数形じゃない!」

シャルガム「頼むよ。皆に神様の守護がありますように」

ケンジ「行っちまった」

私「今日はこれでおしまいだ。次回からはシリーズで保護する責任の話をするよ」

ハナ「保護する責任ってそんなに大事なんですか?」

私「一番大切だ。超国家組織を構想することは、主権国家とは何かってことを考えることなんだ。保護する責任理念は、360年間続いて来た主権国家についての考え方を根底から見直すものなんだ」

ケンジ「先生、鼻血でてる」

ハナ「興奮しすぎかしら?」

ケンジ「何でそんなに興奮するんだろ?」

私「だから-、超国家組織を構想することは、360年間続いてきた今までの..ウプッ」

ハナ「冷たいおしぼりよ」

私「ありがとう、やさしいね」

ケンジ「ハナちゃん、それはトイレのぞうきんだぞ」

ハナ「あらっ?何か変だと思った」

私「あ、俺は顔を洗ってくる」

ハナ「先生ごめんなさーい!あー、行っちゃったわ」

イチロー「よーし、次回は保護する責任を根底から理解してやるぜ!」



参照1:At the Interview with Harold Hudson Channer, accessed 2012年8月7日 http://
abdurrahmanshalgham.com/video.html

リビアと保護する責任①

昨日の朝6時45分、ロケット砲と手榴弾で武装した男にリビアのICRC赤十字国際委員会が襲われた。
当時7人いたスタッフは無事だったが、建物は大きく破壊された。
リビアでICRC赤十字国際委員会が襲撃されるのはこの3ヶ月間で5回目。
これを受けてICRCはリビアのミンサラとベンガジから一時撤収する。

ハナ「えー、どうして?赤十字は医療活動をしているだけじゃない!」
私「その通りだよ」
ハナ「怪我している人や病気の人を助けてるだけでしょ?」
私「そうだ」
ハナ「無料でやっているんでしょう?」
私「そうだよ」
ハナ「それなのに、どうして攻撃しなきゃいけないの?」
私「わからない」
ハナ「政治や宗教とは一切関係ないんでしょう?」
私「そうだ」
ハナ「なぜ攻撃するの?」
私「わからない。わかるのは、この3ヶ月で5回攻撃されたっていうことだ」
ハナ「撤収したら患者さんは死んじゃうじゃない!」
私「そうかもしれない」
ハナ「何よそれ!私はそんなの絶対許さないわよ!」
ケンジ「泣かなくてもいいだろ!」
私「紛争地での医療活動はそういうものだ。危険を冒しても残って続けるか、一時撤収するか、というギリギリの判断を迫られる。撤収すれば活動は後退する。
続ければスタッフの命の問題になる」

ハナ「どちらかしかない..」
私「そうだ。現場で医療活動をしているICRCにはどちらかしかない。目の前の被
害者を救うことはできるが、紛争の原因を取り除くことはできない」

ハナ「原因を取り除くのはだれの仕事なの?」
私「政治だ」
イチロー「おーっ、俺は医者じゃなくて政治家になるぞ!」
ケンジ「おまえ何か軽いんだよなあ」
私「いや、軽くていいんだ。だからキッズ地球防衛隊に皆が期待してるんだよ」
ハナ「先生、今日は何か別人ね。コブラツイストをしてたのと違う人みたい」
私「えっ、私がそんなことしたか?」
ハナ「ヘッドロックもした」

私「いや、えーっと、今日はリビアと保護する責任の話だったんだ。次回に持ち
越すからね。今日はこれでおしまいにするよ」

つづく

犬塚直史(いぬづかただし)

「敵のいない軍隊」とダグ・ハマーショルド②

私「今日はハマーショルドさんに特別講義をしてもらうことにした」

一同「えー、まだ生きてるの?」

私「そこのところは、まあ何て言うか、タイムマシーンみないなもんだ」
ハマーショルド「ハイ、ベイビー」
一同「えーっ、本物だー!ハイ、ベイビーだって!」
私「じゃあダグ、この子達にピースキーピングの始まりを教えてやってくれ」
一同「ダグだって!完全にため口きいてる!」

私「目的は一緒なんだから当たり前だ。キッズ地球防衛隊のためなら、歴史上のどんな偉人も友達なのさ」

イチロー「そうだ!昔の奴らにできなかったことを俺がやってみせるぜ!」

ハナ「俺たちでしょ」
私「さあキッズ防衛隊の諸君、なんでも聞いてくれ」
ケンジ「あんたどうやって出てきたの?」

ハマーショルド「オー、その質問はタブーです。ワンアウト」
ハナ「何かこの人、ジニーみたい。私好きだわ」
イチロー「敵のいない軍隊って何ですか?」

ハマーショルド「ピースキーピングの理念だ。超国家的な組織でなければあり得
ない理念だ。世界が一触即発の危機に陥ったスエズ動乱の時に編み出された原則に支えられている」
ケンジ「ピースキーパーだって武器をもってるんでしょ。敵がいないんなら必要
ないじゃない?」

ハマーショルド「うん、良い質問だ。それに答える前に皆に教えてもらいたい。
軍隊の目的って何だい?」
イチロー「敵をやっつける」

ケンジ「まず、自分の国を治める」
ハナ「本当に強ければ、誰もケンカをしかけてこない」

私「(こいつら急に出来すぎの答えをするようになったなあ..)」

ハマーショルド「そうだ。軍の目的は敵を殲滅し、占領し、服従させることだ。
国内でも、この力で最終的に国を治める。そしてその潜在力をもって敵の攻撃を
抑止し、外交を有利に進めるんだ」

ハナ「国連軍をつくってそうしようとしたの?」

ハマーショルド「いや、国連軍は世界の警察官になることをめざしたんだ。世界
の平和と安定に脅威となるようなことをする国に対して、皆が一致してこれを制
裁するしくみだった」


イチロー「でも加盟国の意見が合わなくてできなかった..」

ハマーショルド「そう。スエズ動乱の時もそうだった。国連安全保障理事会でイ
ギリス、フランスが拒否権を発動して、安保理決議は採択できなかった」

ハナ「拒否権、というのは五大国(米・中・露・英・仏)に逆らえないっていう
ことね」

ハマーショルド「五大国の国益に反して、あるいは五大国に対して強制力を使う
ような決議は一切できないということだ。国連の限界の一つだ。今回はなんとか
乗り越えたけどね」

ハナ「どうやって乗り越えたの?」

ハマーショルド「拒否権で動かない安保理を超えて、総会の場で“平和への結集決議”というのを採択して五大国も反対出来ないようにしたんだ」

イチロー「やるじゃないか!」
ハマーショルド「まあね」
ケンジ「すげー!」
ハマーショルド「まあ、ウルトラCという感じだな」

ハナ「いやだこの人、自慢してるのかしら」

ハマーショルド「えーと、いずれにしてもだ、この“平和への結集決議”に基づいて国連緊急軍(United Nations Emergency Force1, UNEF1)を展開させることができた。戦争をしている英・仏・イスラエル連合勢力とエジプトの間に、国連とい
う中立の旗をもった軍事組織を駐留させて緩衝地帯をつくり、武力衝突をやめさ
せたんだよ」


ケンジ「でも、国連って国はないんだから、中立と言ってもどこかの国の軍隊な
んでしょ?」


ハマーショルド「そう。最大で6,000名のピースキーパーが紛争地に展開したが、
五大国は入れなかったし、司令官もカナダ、インド、ブラジルなどの国から任命
されたんだ。どちらかの味方だと見なされた時点で、この作戦は失敗だからね。
私もスゥエーデン出身さ」

ケンジ「何人死んだの?」

ハナ「あんた失礼よ!」
ハマーショルド「12年間展開している間に、110名の尊い犠牲を出した。命を救う
という使命に、命を捧げたんだよ」

ケンジ「ごめんなさい」
イチロー「でも、敵をやっつけることが目的じゃないんなら、いつ、どうやって
撤収を決めたの?」

ハマーショルド「基本的にはエジプトの領土の話だからエジプトの判断なんだ
が、紛争当事者だからそうもいかない。国連の判断、という話にはエジプトは絶
対に乗れない。最終的にはお互いを信じてスタートする“信義則”の原則をとった。これ以外、あり得なかったと思う」


ハナ「信じ合えるなんて素敵!やっぱり愛が世界を救うんだわ」

ケンジ「そういう問題じゃないだろ!」

イチロー「でもエジプトにしてみれば、国連とはいえ、自国の領土に外国軍を入
れる事に反対しなかったの?」

ハマーショルド「そこが一番大切なところで、“同意原則”という。どんなに紛争を
止めさせるための緩衝地帯をつくるためであっても、当時国の同意がなければ入りません、という原則だ。」

ケンジ「敵のいない軍隊がどうして武器をもつの?」
ハマーショルド「丸腰で行く場合もあるよ。たとえば軍事監視とか武装解除なん
かの場合は、武器の専門家である軍人がユニフォームを着るが丸腰で行く。ピ
ースキーピングは最低限の武器を携行する。実際に武器を使用するのは自己保
存、つまり自己防衛とか、目的達成のための必要最低限の場合に限られる。放
っておいたら止まらない殺し合いを目の前にして、どんな装備が必要かっていう
判断だ」
イチロー「すげー!ここはハマーショルドのおっさんに負けとくぜ」

ケンジ「またそれかよ」

イチロー「ハマーショルドさんよ、おれが21世紀のピースキーピングを作ってや
る!」

ハナ「俺、じゃなくて俺たち!」

ハマーショルド「うん。本当に期待してるよ。それじゃ私はこれで」

一同「えーっ、まだ色々聞きたい!」

ハマーショルド「いや、きょうはこれからビーチでカクテル飲むんだ。私はもう
充分働いたからね。後は君たちに任せるよ。バーイ、ベイビー」

イチロー「行っちゃったよ」

ケンジ「バーイ、ベイビーだってよ」

ハナ「あの人、面白—い」

私「はいそれでは今日はこれでおしまいだ。(あー楽だった。もっとゲストを呼
ぶぞ)次回は、牙のある国際連盟の失敗の話をします」


イチロー「やったー、牙の話だ!」
ケンジ「オオカミ王ロボだ!」

ハナ「またジニーくるかしら?」
私「(こいつら、どうしてこういうノリに戻るんだろう..)」

つづく

犬塚直史(いぬづかただし)

「敵のいない軍隊」とダグ・ハマーショルド①

私「敵のいない軍隊なんてあり得ると思うかい?」
ハナ「言葉遊びみたいに聞こえるけど」

私「いや、そうじゃないんだ。1956年の11月に本当にすごいことが起こったんだよ。国連緊急軍(United Nations Emergency Force 1, UNEF1)がスエズ動乱に展開したんだ。これが国連の平和維持活動(Peacekeeping、ピースキーピング)の始まりなんだよ」

イチロー「ピースキーピングってPKOのことなんでしょ?」

私「そうだよ」

ケンジ「ガンダムみたいのが出ると思った」

私「いや、ピースキーピングはガンダムより、宇宙戦艦ヤマトより、スタートレックより凄いと思う。人類の歴史でこんな軍隊はいなかたんだ」

ピースキーピングとは:公式の定義はありませんが次のように理解できます。

「世界の平和と安定に脅威となるような地域的な紛争勃発に際して、国連の権威を代表する軍事組織を紛争地域に展開・駐留させ、そうした軍事組織の存在自体によって紛争を平和裏に解決しようとする国連の活動である」。

国連憲章にも記述されておらず、国連創設者も予定していなかった機能を、ハマーショルド事務総長(当時)のリーダーシップで、実践活動のなかから生み出したものなのです。

ハナ「よくわからないわ。国連をつくった人達も考えてなかった?」

イチロー「国連憲章にも書いてないって、どういうこと?」

私「すこしおさらいをするよ。大切なところだから良く聞いてね。国連の目的は世界平和だって話は覚えているだろ?」

ハナ「戦争の惨害から次世代を救う、ってところね」

私「そうだ。第二次世界大戦で4,000万人といわれる人達が犠牲になって、二度と繰り返すまいという気持ちで国連憲章が書かれたんだよ」

ケンジ「でも各国の意見が合わなくて、平和がつくれないんでしょ?」

私「そうだ。そもそも第一次世界大戦の後に国際連盟がつくられていたんだが、平和つくりに失敗して第二次世界大戦が勃発してしまったんだ」

ハナ「こりずに同じものをつくったの?」

私「いや、国際連合は“牙のある国際連盟”といわれていて、世界の警察機能、つまり世界軍をつくろうとしたんだよ。そんな発想は国際連盟時代には全くなかったんだ」

イチロー「やった!やっと出て来たぜ。世界警察、地球軍!」

ケンジ「銀河防衛隊だ!」
私「違うって!(今日は調子良かったんだが、世界軍なんていうんじゃなかった
..)


つづく


犬塚直史(いぬづかただし)

国境なき医師団(MEDCINS SONS FRONTIERS, MSF)は証言する道を選んだ。

前回はICRC赤十字国際委員会の紛争地での活動のお話をしました。

どんなに危険な紛争地域でもぎりぎりの状況で危険と支援のバランスを取りながら活動を継続させて、人道支援を最大にすることだけを考えて現場で戦っているのです。

武器をもつ兵士の勇気があるように、丸腰で人道支援を行う勇気があります。

イチロー「す、すごい。俺はサンダーバードにこだわって反省してる」

ケンジ「マスクなしのスパイダーマンだ!」

ハナ「しかも、私達は知らなかったのよねえ」

私「そう。我々は現場のことを知らないんだ。今日は出だし好調だ。君たちみたいな中学生がいて、俺は嬉しい…」

ケンジ「泣くこたないだろ!」

ハナ「もー、そろそろ証言する道の話をしてください!」

そうです。今日は人道活動における「証言」の話です。
ナイチンゲールやアンリ・デュナンのように、戦場で傷ついた人達を敵味方の区別なく治療する中立性の話は前回しました。

彼らが活躍した時代は、主に2大勢力が戦争という形で争っていました。
合従連合があっても誰が争っているかは、分かり易かったのです。

そうした状況であれば、現場の医師や看護士が一方に加担しない、政治的な発言をしない(つまり紛争当事者にとって都合の悪いことを言わないことで)、どんな紛争地域でも一定の活動空間(人道的空間といいます)を確保できたといえます。


イチロー「見ざる、聞かざる、言わざる、ってこと?」

ケンジ「そんなの変だ!」

ハナ「いじめを見ないふりするのと同じね」

私「その通りだよ。そんな困難な状況で活動しているんだ。助けようとしても、いじめっ子達が許可しないと教室に入れない。先生、教育委員会はまったく頼りにならない。そもそも警察なんか存在しないんだ。つまりいじめっ子が一番強い、誰も手が出せない状況なんだ。人道的空間というのは、いじめっ子の許可をもらって怪我している子の手当をするってことなんだよ」

ハナ「えー、そんなの絶対許せない!」

イチロー「やっぱりサンダーバードが必要じゃないか!」

私「その話に戻るなって!続きがあるんだから」

ホロコーストのように、少数民族が抹殺されてしまうジェノサイドが起きている時でも、人道的空間を確保するために黙っているのでしょうか。
それは消極的協力にはならないか。

国家が機能していない、あるいは政府自体が犯罪を犯しているとき、組織的で継続的なレイプや、誘拐を繰り返して子供兵士を使っている時、人類の良心に衝撃を与えるような罪(アトロシティー・クライム)が発生するとき、人道支援は中立性を守り、黙って医療活動を続けるのか。

それは、最大多数の犠牲者に医療支援をするための最善の道なのか。それとも、中立性を犠牲にしてでも「証言」を行うことで世界の注目を集め、政治責任をも追求すべきなのか?

MSF国境なき医師団は証言する道を選びました。証言する。
つまり、特定国家で行われている許し難い犯罪を告発する。内政不干渉の原則を破り、主権国家の権威を犯しても行動するということなのです。

イチロー「ないせー、ふかんしょう.. 何も感じないんだろうなあ」

ケンジ「それは不感症だろ!」

ハナ「あんた達、知らないのね。内政不干渉は国連の一大原則なのよ!」

私「ハナちゃん、よく知っていたね」

ハナ「予習したんです。いつまでもサンダーバードじゃないから」

イチロー「傷つくよなあ」
MSF国境なき医師団は1971年12月20日に創設されました。
ビアフラ(内戦で引き裂かれたナイジェリアの一地方)と東パキスタン(現在のバングラデシュ)に派
遣されていたフランス赤十字の医師達が、この二つの危機的状況に対応しきれなかった赤十字の反省を踏まえて創設したのです。

目的は一つ。危機的状況下で一刻も早い人道支援を提供することです。
そのために当該国家が非協力的であれば従わない、緊急事態において国境線が障害ならば尊重しないという、人道支援の歴史を画する活動をめざしました。引用1

イチロー「国境なんか無視する!なんだか話がわかってきたぞ!」
ハナ「無視するって言ってないわよ」

ケンジ「証言とどういう関係なのかな?」

私「1999年にMSF国境なき医師団はノーベル平和賞を受けるんだが、その受賞スピーチを聞いてみよう。よく分かると思うよ」

...政治的対応が不適切かどうか、ことばでわかるのです。レイプ、強姦を「複雑
な女性的緊急事態」などという人はいないでしょう。レイプはレイプであり、大
量虐殺は大量虐殺なのです。そしてこのいずれもが犯罪です。

国境なき医師団にとっての人道援助活動とは、苦痛を和らげる方法を探す、自治を回復する道を見つける、不正の真実を証言する、そして政治責任を強く求めるということです。
(以下略)引用2

イチロー「うーん、すごい。俺も医者になってMSFで働くぞ!」

ハナ「すぐ気が変わるくせに!」

ケンジ「すごいけど、紛争自体を止めさせる人も必要だよね」

私「そう、それこそ国連本来の仕事なんだ」

国連憲章前文(目的):われら連合国の人民は、われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い、(中略)これらの目的を達成するために、われらの努力を結集することに決定した。

「戦争の惨害から将来の世代を救」うことが国連の目的だと書いてあるだ
ろ?」


ケンジ「できてないじゃないか!」

ハナ「世界中の国が集まって、どうして出来ないのかしら?」

私「うーん。最大の原因は安全保障理事会の常任理事国(米・中・露・英・仏の5大国)には逆らえないこと、戦争を止めさせるための手段として戦争を予定していること(矛盾してるだろ?)、そして内政不干渉の原則(どんなにひどい人権侵害でも主権国家内の問題には介入できない)、などだよ」

国連憲章第1章第2条7項(内政不干渉):この憲章のいかなる規定も、本質上いずれかの国の国内管轄権内にある事項に干渉する権限を国際連合に与えるものではなく、また、その事項をこの憲章に基く解決に付託することを加盟国に要求するものでもない。
但し、この原則は、第7章に基く強制措置の適用を妨げるものではない。引用3

イチロー「第7章なら良いって書いてあるじゃないか!」

私「良く気がついたね」

イチロー「第7章に基づく強制措置、って何?」

私「紛争が世界の平和と安全に脅威だと思われれば、強制介入できるってことだよ」

ケンジ「ならどうして国連ができないの?」

私「それはね、国連(国際連合)の中で、国の利害が出て来て意見が合わないからなんだ」

一同「えーっ!」

イチロー「腹立つー」

ケンジ「足バタバタさせるなよ!」

私「ところがね。国連も捨てたもんじゃないんだ。フッ、フッ、フッ」

ハナ「気持ち悪—い」

私「国連はね、冷戦時代に敵のいない軍隊をつくり出したんだ」

イチロー「おー!やっと面白くなって来た!」

ケンジ「おっとー、止めろー、これが見えぬかー、国連だー、っていう軍隊だよな」

私「そう。国連の平和維持活動というんだ。いわゆるPKO(正式にはpeacekeepingピースキーピングという)だよ。」

というわけで、

次回は「敵のいない軍隊、国連の平和維持活動」とこれを創設したダグ・ハマーショルドのお話をします。

犬塚直史(いぬづかただし)

赤十字国際委員会の父アンリ・デュナン

超国家的な組織として一番最初に浮かんでくるのは赤十字国際委員会
(International Committee of Red Cross, ICRC)です。

そして赤十字国際委員会の父と呼ばれているのがアンリ・デュナンです。

少年A「えー、それって日赤病院のことじゃん。サンダーバードよりすごい話っていうのは嘘か?それとも、日赤病院の地下に秘密基地があるのか?」

私「秘密基地はないっていってるだろ!」

少年B「アンリ・デュナンはスパイダーマンか?」

私「もう、お前をクモの糸で巻いてやろうか!」

赤十字と名のつく組織は三つあり、それぞれ深く関係しています。

①赤十字国際委員会(ICRC)
②国際赤十字連盟(IFRC)

そして
③各国の赤十字社・赤新月社です。

日赤病院などでおなじみの日本赤十字社は3番目の「各国の活動」に入ります。全国47都道府県にある支部、病・産院、血液センター、社会福祉施設などを拠点に、幅広い分野で活動しており、5万人以上の社員がいる大きな組織です。

こうした各国の赤十字が世界186ヶ国に存在します。

少年A「社員5万人!かける186カ国で900万人の組織か。やっぱりサンダーバードだ!」

私「勝手に計算するな!」

少女A「税金もいっぱいつかうだろうなあ」

私「それは残念でした。すべて寄付金で賄われてるんだ」

少年B「国連もなかなか良いことしてるじゃないか!」

私「赤十字は国連機関ではありません!」

そうなんです。
赤十字は国連機関ではありません。

アンリ・デュナンというスイス人のビジネスマンが始めた単なるNGOなんです。

もっとも、日本では日本赤十字社法という国内法と、国際的にはジュネーブ諸条約という条約でその活動が規定され、広く認められているところが普通のNGOとの違いです。

彼はこの功績を認められて1901年に第一回のノーベル平和賞を受賞しています。
それにしてもごく普通のNGOがここまで大きく育ったのはどうしてだと思いますか?

少年A「ビジネスマンとは仮の姿で、サングラスをするとマン・イン・ブラックに変身するのか!」

少年B「アンドロメダ星雲から派遣された地球救援隊員か!」

少女A「愛が地球を救うのよ」

少年B「そーいう問題じゃないだろ!」

少年A「スパイダーマンも恋人がいるぞ」

私「(このガキ共をボディスラムしてやりたいが..)そうですね。皆さんの言っていることは全て正しいといえます」

一同「えーっ」

私「つまり、たった一人の個人が始めたNGOが、場合によっては国連組織よりも大きな活動をするようになったのです。宇宙人の眼で地球の状態を見ていたに違いありません。(あー、苦しい)」

そうなんです。

国連は主権国家の集まりであり、基本的には政治的機構です
加盟各国の利害が対立して効果的な決定や活動ができないことはしばしばあります。

例えば、タリバン政権下のアフガニスタンで、一時期国連要員がすべて国外脱出しましたが、そのような治安状況でも赤十字は国内に留まり、医療救援活動を継続しました。
それは長い歴史と実績の積み重ねの中で赤十字活動の中立性と非政治性が武装集団にも理解され、安全が保障されたからでした。

また、国連はすべての国に拠点をもっている訳ではありません。

しかし 赤十字は全世界の国々に県や州単位で支部をもち、きめ細かい活動を実施できるネットワークをもっています。
例えばネパールの山間僻地にも赤十字支部をもっています。

ユニセフ(国連機関)がネパールで活動する時には、末端組織のない国連に代わって、ネパール赤十字の地方支部ネットワークを活用して事業が行われてい
ます。(注釈1)


少年A「何か地味なんだよなあ..」

少年B「うーん、俺もやっぱりサンダーバードが良いなあ」

少女A「何言ってるの素敵じゃない。ナイチンゲールと同じよ!」

少年A,B「ナイチンゲールは関係ないだろ」

私「いや、関係大ありなんです!」

1872年にアンリ・デュナンがロンドンを訪れた時に彼はこう言っています。
「私は赤十字活動の創設者として、そしてジュネーブ条約の起草者として知られていますが、

ますが、実はこの条約制定の名誉はあるイギリス婦人のものです。

彼女の名前はフローレンス・ナイチンゲールです。

私が1859年にイタリア戦線に行ったのは
(訳注:この経験をもとに「ソルフェリーノの思い出」を執筆)ナイチンゲール
女史のクリミア戦争での活躍に触発されたからに他なりません。」(注釈2)


少女A「まぐれ当たり!でも敵味方の区別無く看護したんでしょ?」
私「その通り!(やっと報われた気持ちだなあ。話が進みそうだ..)」

そうなのです。
ナイチンゲールの活動も赤十字の活動も敵味方の区別をしません。
つまり国境を越えているのです。この点についてイギリス赤十字はこう書いています。

“今日に至るまで赤十字活動の中核にある中立性の原則は、フローレン
ス・ナイチンゲールの苦悩に対する考え方と深く結びついています。

彼女はこう言います。
「人間の苦悩は通常の価値を超える。苦悩が続いている所には善悪も価値も敵味方も存在しない。苦悩している被害者はそうした人間社会の区別や判断を超えるのです。救済に必要なのは苦悩しているという事実だけなのです。」”

少年A「何だか分からないが、かっこ良すぎ!とりあえずここは負けとくぜ。でも、地球防衛隊は必ず俺がつくって見せるぞ!」

こうしてICRC赤十字国際委員会のメンバーは、世界の紛争地域に丸腰で入って行きます。

時には犠牲者も出します。
それでも武器は持ちません。どの国にも属さず、政治的な意見も持たず、誰の味方もせず、ただ被害者の救済だけを行う中立性が武器なのです。

どんな紛争地域でもICRCだけは最後まで活動を続けることができるのはそうした訳なのです。

少年A「そうか、最新兵器もっているサンダーバードよりも勇気があるんだ!」

少年B「うーん、違う勇気だよね。でもやられっぱなしなんだろうか?」

少女A「それじゃ力の強い方がいつも勝ちそうね」

私「いいところに気がついたね。そうなんだ。中立性をもって被害者の救済だけを行う赤十字も、第二次世界大戦時のホロコーストでは失敗した、といわれているんだ。連合軍にもナチにも加担しないで被害者救済を続けた。でも、虐殺を防ぐことはできなかったんだね。もちろん、ホロコーストを防ぐのは赤十字の責任ではないよ。それでも、現場にいて残虐行為を目の当たりにしている赤十字には証言することも求められている、という考え方が生まれたんだ。それが国境なき医師団の創設につながったんだよ」

そうです。
中立性を犠牲にしても、許し難い犯罪を犯している人間を告発し、証
言するか?という問題です。


次回は証言する道を選んだ国境なき医師団の話です。

超国家的な組織とは何か?

あなたは子供の頃に星空を見て、特別な気持ちになったことがありますか?

前回は
アインシュタインや湯川秀樹の話がでましたが、物理学では宇宙の謎に少しでも迫ろうとしています。

そんな研究者の目から見れば、小さな地球上で国境線の引き方で殺し合いが止まないことも大きな謎なのでしょう。

確かに地球上に国境はありません。

宇宙から見た地球は美しい青い惑星で、海と陸、山と川は見えるが、国境線は見えません。

皆さんが飛行機に乗ってハワイに行くとすると、パスポートを持ってまず日本を出国します。出国しても空港の中ですから日本の土地に間違いないのですが、一応出国したことになっていますので、免税品が買えます。

ここからはパスポートがなければどこへも行けません。

要するに国境線というのは人間の決め事であって、実際に何かの線が引いてある訳ではないのです。


広大な宇宙で地球以外の星に生命がいることはまだ確認されていません。ということは何千億という星の所有権は誰も主張していない。
地球ができて何百億年か経っているそうですが、人間社会ができてようやく数千年。

そもそも大地は、海は人間のものでしょうか。もとよりないところに国境線を引いて、そのでっぱり引っ込みで殺し合いを続けることを、本当に止めることができないのでしょうか?

超国家的、つまり国境を超えるやり方を考えなければなりません。
超国家的な組織、つまり国境を超える人間社会をつくらねばなりません。

アインシュタインが
「平和と安全に至る道は超国家的な組織をつくることしかない」といっているのは、そういう意味なのです。


「そーか。やっぱり世界を救うのはサンダーバードだ!」

「違うって、それは古すぎだ」

「そーか。現代社会はスパイダーマンが救うのだ!」

「新しければ良いって物じゃないだろ」

「じゃあ、マン・イン・ブラックの地球防衛隊だ!」

「もー、こいつをつまみ出せ」

サンダーバードというと、秘密基地があって、ヒーロー達が世界を救う為に活躍しているイメージですが、超国家的な組織は少し違います。

まず秘密基地はありません。
そしてヒーローもいない。それでもやっていることはサンダーバード。

以上です。
次回はそんな超国家組織の具体的な話をします。

平和と安全に至る道は一つしかない。 -アルべルト・アインシュタイン

「平和と安全に至る道は一つしかない。それは超国家的な組織(SupranationalOrganization)をつくることだ。一国の視点で防衛能力を高めることは一般的に不確定性と誤解を生み出し、効果的な安全保障にはならない。」

これはアルベルト・アインシュタインの言葉です。

ノーベル賞をとったあの物理学者のアインシュタインです。

どうして物理学者が、政治的かつ複雑で困難な問題である「安全保障」などという分野に口を出すのでしょう。

「試験管で平和がつくれるか!

と怒られそうですが、時代背景を考える必要があります。
第二次世界大戦で4,000万人といわれる犠牲者を出した後に、
「Never Again、もう二度と同じ過ちは繰り返すまい」としてつくったのが国際連合(国連)です。

しかしその国連も世界の平和維持にはあまりにも力不足であることが明らかになるにつけ、米国では国連改革を求める100万人規模のデモが行われたそうです。

国連と言っても結局は大国のパワーゲームの舞台にしか過ぎず、
「世界の警察」
「世界の裁判所」
「世界の大蔵省」
ましてや「世界連邦」などという大それたものではなく、単なる主権国家の集まり(International)であって、超国家的な組織(Supranational)ではないことが明らかでした。

「超国家的なそーしき?太平洋に散骨するのか?」

「葬式じゃなくて組織だって!」

「ちょーかわいい組織?うーん、何となくワクワクするな」

「ちょーかわいい、じゃなくて超国e家的!」

世界大戦が終結した開放感の中で、国連に対する期待感も大きなものがあったのでしょう。

今では「世界連邦」などというと「テレビゲームのやり過ぎ?」

と思われそうですが、当時はまったく違った雰囲気で語られていたのでしょう。

この頃、アインシュタインだけでなく、日本では湯川秀樹博士が世界連邦運動を日本で主導しました。

宇宙の謎に少しでも迫る研究をする物理学は、最終的には分子・原子・素粒子という極小世界の研究に結びつくそうですが、同じように、人間社会がどうやったら戦争をやめることができるのかという研究は、宇宙を構成しているエネルギーや物質の法則に結びつくのかもしれません。

また、核の軍事利用というパンドラの箱を開けてしまった人間社会に対する不安が彼らを「WFM世界連邦運動」に結びつけたのかもしれません。

もちろん「核の国際管理」もWFMの主要課題の一つです。

しかし、いずれにしても、いかにノーベル賞をとった天才物理学者のいうことであっても、
「超国家的な組織」をつくるなどという話をあなたはイメージすることができますか?

アインシュタインは「スープラナショナル・オーガニゼーションSupuranational
Organization」と英語で表現したのですが、これは一体何の話なのか?


次回から詳しくお話をして行きます。おつきあい下さい。