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保護する責任とは - ②ギャレス・エバンス

私「授業再開する」
一同「おぉーーっ」

私「(こいつら気合いだけは良いんだよなあ)」

エバンス

「なぜR2P保護する責任という理念が、今、この時代に出て来たのか?
正解はアトロシティー・クライムに対応するためだ。アトロシティー・クライムはジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪、民族浄化の4つだ。まずここをしっかり押さえて欲しい。

一言でいえば許し難い大量虐殺、民間人への攻撃や捕虜の拷問など大規模な戦争犯罪、特定の民族や地域住民に対する強制移住や組織的なレイプなどだが、4つの犯罪は国際法でしっかりと定義され、こうした罪を犯した個人に対して国際刑事裁判所(International Criminal Court, ICC)が管轄権を持っている。

この4つは人類の良心に衝撃を与えるような許し難い犯罪だ。しかし、アトロシティー・クライムがどんなに許し難い犯罪であっても、今まで国際社会は全く無関心だった。ウエストファリア条約以来360年間経つが、主権国家は“殺しのライセンス”をもっていたといえる。参照1
そしてこの状況は、人類がホロコーストを目撃した後でも、国連人権宣言採択の後でも変わらなかった。
ジェノサイド禁止条約が発効しても継続した。強制力、執行力に欠ける国際法に懐疑的な見方があるのはこうしたところからくる。
R2P保護する責任はこうした政治的な問題に対する政治的な答えだ。R2Pが登場する前、1970年代半ばからカンボジア、パキスタン、ウガンダで起こったアトロシティー・クライムが起こり、1990年代に入って、ルワンダ、スレプレニッツア、コソボなどでも起こった。

こうした犯罪を目の前にして先進国は「人道的介入」を主張した。これに対して発展途上国は「形を変えた植民地政策」であると主張し、地球上の南北の国々が認識を共有することはなかった。

こうした事情が変化したのは2000年の国連ミレニアムサミットでの、コフィ・アナン事務総長発言だ。彼は、「もし人道的介入が主権国家に受け入れられないなら、我々はルワンダやスレプレニッツアにどう対応するのか?」と、国際社会に挑戦したのだ。
このチャレンジを受け止めたのがカナダ政府で、“主権と介入に関する国際委員会(International Commission for State Sovereinty and Intervention, ICSSI)を組織し、2001年には「保護する責任」というレポートを提出してこれに答えた。私もこの委員会メンバーの一人だ。
ここでいう保護する責任という理念は、時代を画する3つの大きな貢献をしたと思う。
一つ目は、国家に対する考え方が完全に転換したことだ。大規模な人権侵害を止めることは「介入」ではなく「責任」だとした。
これは言葉の違いだけではない。
保護する責任に基づいて、アトロシティー・クライムを無くすことが国家の責任とするならば、これに失敗し続ける国家は、国家ではなくなる。主権国家として認められるには、そこに住んでいる人達を保護する責任を全うしなければならないということだ。「主権国家は責任を伴う」というのは過去にない全く新しい考え方だ。
二つ目の貢献は関係する当事者が世界規模に広がったことだ。
「介入する権利」では、支援の障害を乗り越えて人権活動団体が活動する、そしてこれを軍事介入などで支える等の形に限定されがちだ。しかし「当事国の責任」、そして「当事国が能力も意思も持たない場合は国際社会の責任」としたことで、国連加盟の全ての国家が当事者になった。
三つめの貢献は、政策の選択肢を広げたことだ。「介入」では、介入に至るまでの道筋も介入後の再発防止も視野に入らない。しかし、「責任」では、予防・対応・再建の3つのフェーズが視野に入る。すなわち、”予防フェーズ”
で、開発・監視など、”対応フェーズ”で、説得・仲裁・経済制裁・刑事訴追・軍事介入など、“再建フェーズ”で、治安機構改革・武装解除・元兵士の社会復帰などだ。長期的な視野をもった再建フェーズは開発に係わるから、ここで再建が予防につながる。


こうして、「人道的介入」を「保護する責任」理念に整理したことで、主権国家は主権国家たる責任を負うことが規定され、長期的な視野をもってアトロシティー・クライムの防止を考えることが可能となった」

私「ギャレス、一応今日はここまでにして続きは明日にしてくれ」
エバンス「じゃあ、今夜は寿司屋に連れて行ってくれ」
私「おいしいところに行こう!」
ハナ「みんな、エバンスの話、全部録音したよ」
ケンジ「おっさん早口だからなあ」
イチロー「続きは俺の家でやろう!」
私「それじゃ皆、続きは明日の朝だ、9時から始めよう」
一同「うぉーす!」

私「(この元気は気味がわるいが、)解散!」


犬塚直史(いぬづかただし)


参照1
Former Foreign Minister Gareth Evans: Responsibility to Protect, Interview with YaleGlobal, accessed, Aug.9,
2012. Excerption, translation by Inuzuka.
http://www.youtube.com/watch?v=akshf67dnAs

参照2
Gareth Evans on the evolution of the Responsibility to Protect, Keynote address at the Stanley Foundation
Jan. 17, 2012, http://www.youtube.com/watch?v=SjepYRGoJlY accessed Aug. 9, 2012, Excerption,
translation, incersion by Inuzuka.