ページ

保護する責任とは - ③ギャレス・エバンス

エバンス「キッズ地球防衛隊の諸君、おはよう!」
一同「おはようございまーす!」

私「ギャレスは今日の飛行機で発つが、その前にもう一度講義をしてくれる。ラッキーだぞ!(その分、きのうは寿司と冷酒で散財したぞ)」

イチロー「エバンスさん!」

ケンジ「おっさん、って言わないところが進歩だな」

イチロー「世界の警察、できてないじゃないですか!」

エバンス「?」

ハナ「あっ、私から説明します。つまり、保護する責任が2005年の国連サミットで認められたのは良いんだけど、それは理念を認めたってことで、実際に世の中が安全で住みやすくはなっていない。国連ができて67年も経つのに、大人は本気でやっているんですか?会議ばっかりじゃないんですか?っていう意味です」

イチロー「日・日の通訳が要るとは思わなかった…」

エバンス「その通りだ!」

一同「えーっ」

エバンス「まったくその通りだ!おれも腹がたつ!そこで君たちに質問だ。国連ってのは一体なんだと思う?」

イチロー「会議するところ」

ハナ「主権国家の代表が集まる」
ケンジ「5大国のパワーゲーム」

エバンス「うん。私にとってはね、国連は“鏡に映った自分の顔”だ」

一同「鏡に映った自分の顔…」
エバンス「“戦争の惨害から次世代を救う”といって67年も経つのに、世の中少しも平和になっていない。国連は何をやっているんだ、っていう気持ちはわかる。だが、世の中に国連人という人種はいない。国連という国もない。国連は何をやっているんだ、という言葉はだれに向かって言うんだい?」

イチロー「国連事務総長」
エバンス「ほう。じゃあ、国連の予算はいくらか知ってるかい?」

イチロー「知りません」
エバンス「2010年度で約25億ドル(約2,500億円)、東京都世田谷区と同じだ。国連事務総長は世田谷区長と同じ予算しかもっていない」参照1

ハナ「えーっ、世田谷区長と同じレベルなの?」

ケンジ「次世代を戦争の惨害から救うのが世田谷区長?」
エバンス「世界警察の質問をしたね。現在一番近い活動がピースキーピングだが、予算は同年で約79億ドル(7,900億円)、世界各国の年間軍事支出1兆4,000億ドルの0.5%にしかすぎない」

イチロー「なんだよそれ!」

エバンス「なんだよそれ!っていいたいのは俺の方だ。君たちに足りないのは当
事者意識だ!」

イチロー「なんだ、温泉ならたまに行くぞ!」

ケンジ「それは湯治だろ!」

エバンス「世の中呆れるほど腹のたつことばかりだ。誰かやらないのかって、そ
う言うのは簡単だ。だがね、その誰かってのは君たちのことだ!」

ハナ「確かにそうだわ!だから国連は鏡に映った自分の顔なのね」

私「そろそろ本題に入らないと時間がないぞ」

エバンス「よし、それじゃあ本題だ。R2P保護する責任の発展は3つの段階に分
けて考えることができる。

第一は、理念の誕生だ。ICISS主権と介入に関する国際委員会(InternationalCommission on Intervention and State Sovereignty)のレポートが出た2001年から国連サミットで理念が認められた2005年までが誕生期だ。許し難いアトロシティー・クライムを止めることができない国には、内政不干渉は適応されない。これが2005年の国連サミットで採択された。
どうして地球の“南”といわれる、植民地主義の苦い経験をもっている国々が賛成できたのか?簡単だ。どんな言葉を使っても表現出来ないような許し難い犯罪を、国内だけでは止めることができない事態になり得ることを知っているからだ。人間は恐ろしい。
だからアフリカのサブ・サハラの国々が力強いサポートをしたんだ。南アメリカの国々も同様に強く支持した。R2P保護する責任は、介入ではなく人権を護る責任だからだ。そして2006年には安保理決議によって認められている。
第二が理念の発展だ。理念が認められても、実際の行動に結びつかなければ意味がない。そうした意味で2005年から2011年の間はこの理念の発展段階といえる。
特にバン・キムン事務総長の特別顧問としてR2P保護する責任担当のエド・ラ
ックが2009年に提出したレポートは、行動に結びつける準備として大きな役割を
果たした。

すなわちR2Pには3つの柱がある。
一つ目は主権国家の自己責任、
二つ目は国際社会がこれをサポートする責任、
そして3つ目が最後の手段としての
国際社会の対応責任だ。こうした手続きを踏むことで新たな植民地主義といわれるような要素はほぼなくなったと考えて良い。

第三は政治的意思だ。理念が受け入れられ、行動規範が制備されても、政治が決定しなければ動かない。この点についても2001年から現在に至るまでに大きな進歩が見られる。2001年当時は議論百出だったR2Pも、現在では正面から反対する国は4つしかない。すなわち、ニカラグア、べネゼエラ、キューバ、そしてスーダンだ。この間にダルフール、民主共和コンゴ、スリランカ、ミャンマー/ビルマ、ケニア、ジョージアなどの人権侵害が注目されてきたこともR2Pの必要性を認識させた一因だ。
今必要なのは、意思決定に係るプロセスと執行機関の制備だ。そしてこれを実現させるのが政治的な意思ってことだ。R2Pの現状についてはR2Pモニター(参照2)を見て欲しい。
シリアの状況も含めて最新情報がのっている。2010年9月にはデンマーク、ガーナの協力を得て、フォーカル・ポイントという政府間の協力体制をつくる試みもスタートした。参照3
国連の中にも、ジェノサイドを防ぐための共同事務所が設置されているが、詳しくは別紙を参照して欲しい。参照4
それじゃ、俺はもう行くよ。次に会うときはお勉強じゃなくて、具体的に協力しような。バーイ!」
ケンジ「行っちまった」

イチロー「俺は反省してる」

ハナ「あら、どうして?」

イチロー「動いてないのは俺の方だった。見てろー、これから俺はその辺を走ってくるからな」
ケンジ「それは違うだろ!」
ハナ「良いのよ!私達はこれからなんだから」

ケンジ「そこだ!エバンスのおっさんは、政治的な意思が大事といっただろ?」
ハナ「それがないと何も動かないって」
ケンジ「だが彼は現役の政治家じゃない」
ハナ「なにそれ?」
ケンジ「オーストラリアの外務大臣だったんだろ?」
ハナ「そうよ」
ケンジ「政治家が終わった後の隠居仕事じゃないか」
ハナ「何よそれ!失礼じゃない!」

ケンジ「でもさ、どうしてこういう話に現役の政治家がでてこないんだろ?」

私「選挙に落ちるからだ」

一同「えーっ!」
私「本当だよ。年金・介護・医療・教育・福祉・景気・公共工事なら生活に直結
した政治だが、こんな話は有権者の生活からかけ離れているんだ」

イチロー「いや、それなら年金よりもおいしい給食だよなあ」

ハナ「10時と3時に、おやつのケーキが出るとかね」
ケンジ「ケーキにシャンパンが付くとかな」

私「お前ら中学生だろ!(ゲストが居なくなるとすぐこれだ)まあ、そういうことなら次回は“政治の役割”にしょう。ゲストはカナダのロメオ・ダレール上院議員
だ」




参照1
国連広報センター、http://unic.or.jp/information/budget/ 、accessed Aug.14,2012
参照2
Global Center for the Responsibility to Protect, http://globalr2p.org/ , accessed Aug 14, 2012
参照3
R2P Focal Points: Global Center for the Responsibility to Protect, http://globalr2p.org/advocacy/
FocalPoints.php, accessed Aug 14, 2012http://www.responsibilitytoprotect.org/index.php/
component/content/article/3618, Joint Office of the Special Adviser on the Prevention of the Genocide, and the
Responsibility to Protect, accessed Aug 14, 2012
http://www.responsibilitytoprotect.org/index.php/component/
content/article/3618

参照4
International Coalition for the Responsibility to Protect,