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国連緊急平和部隊(UNEPS) Ⅱ

国連緊急平和部隊(UNEPS: United Nations Emergency Peace Service)


ケンジ「翻訳もってきました」

私「うむ。さっそく見てみよう」


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1948年、当時のリー国連事務総長は、ハーバードでの卒業式の演説で、エルサレムにおける混沌と暴力を打開するために専門の国連部隊の創設が必要だと説いた。

悪いことに、彼はその部隊を「国連軍」と呼んだ。これがそもそもの過ちだった。

国連安全保障理事会(安保理)の五大国はこの提案を完全に黙殺し、アメリカや旧ソ連ですら、仲良く提案を一蹴した。そしてエルサレムの悲劇は続いた。

一方、国連の平和維持活動は1956年のスエズ危機の勃発と初の国連緊急隊(UNEF1)の誕生を皮切りに本格化した。この部隊の派遣は、ダグ・ハマーショルド(Dag Hammarskjold)やラルフ・バンチ(Ralph Bunche)の強い決意と主導のもと、国連総会決議の採択後わずか8日間で実現した。

創設当初、これらの緊急展開軍は加盟国の批判にさらされることがなく、また90年代に入っては不可欠な存在にまで成長していた。

この時期、安保理は17の多機能平和維持・人道ミッションを矢継ぎ早に設置していたが、これらのミッションが負う任務はこれまでのものとは比べようがないほど複雑で、かつ直面する人道上の危機も一刻の猶予も許さないものばかりだった。派遣が2、3ヶ月遅れただけで、人々の命ばかりか、ミッションの有効性やその後の指導力までもが失われてしまうかもしれなかった。

しかしこれらの部隊は、混沌や無秩序の中での活動に必要な訓練を十分に受けておらず、また暴力を止める手段も持っていなかった。そしてシエラレオネでは反乱軍が国連機能を無力化させてしまった。

充分に訓練され、必要な権限と装備をもつ部隊を緊急時に派遣できないことは、災難から人命の損失、派生するあらゆる悲劇という負の連鎖を生み出す土壌となる。

訓練されていない部隊を遅くなってから派遣しても、同じように深刻な人道上の危機しか生み出さないのだ。

90年代に国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子氏は、

自身の名著

『The Turbulent Decade(紛争と難民―緒方貞子の回想)』

の中で、秩序の維持や軍閥による暴力の阻止といった任務を果たせる十分に訓練された部隊が存在しないことが、大規模な難民キャンプの住民にとって何を意味するかを克明に書き記している。

1994年のルワンダの虐殺以降、難民危機の勃発により殺人天国と化した大湖地域では、400万人の命が失われるとともに、数百万ドルに及ぶ救援物資が失われ、地域経済がダメージを受けた。

難民キャンプでの悲劇は、国連平和維持軍が駐留する今も続いている。

これらの惨劇は、速やかな軍事支援を求める緒方氏の訴えが初期の段階で無視されていなければ、起きなかったかもしれないのである。

この例を挙げたのは、常設の即応展開部隊(standing rapid deployment force)
─「緊急平和部隊(Emergency Peace Service)」─構想をサポートする有効な論点となるからである。


他方、この構想に対する共通した反論は複数ある。

第一の反論は、コストである。国連の基準でいえば、小規模であっても常設軍は相当のコストがかかるとみなされる。

それでも、たとえばいわゆる大湖地域でいまなお続く、長期に渡る悲劇的状況がもたらす甚大なコスト(年々増え続ける人命の損失、経済社会の崩壊、人道及びその他支援活動への破壊的影響、そして究極的には、撤退の見通しが全く立たない国連PKO部隊の維持コスト)に比べればはるかに少ない。

常設の緊急部隊に対する第二の反論は、各国政府との間で合意された「待機制度」(UNSAS)が運用・実施可能なのではないかというものである。しかし、1994年安保理がルワンダの虐殺について行動すべきだと判断したときに、UNSASAの20件以上の取組がありながら1件も実施されなかったのである。

当然ながら、国家は自国の部隊を派遣しない権利を保有する。

そんな時に的確かつ迅速に対応できるのは、常設の国連部隊だけである。

もちろん、現在のところそんな部隊は存在しない。

かつてアナン事務総長が述べたように、現在の国連は

「火事が起きて初めて消防車を購入する消防隊」なのである。

そして滅多に公言はされないがもっとも根本的な反論がもう1つある。それは国家主権の侵害である。

国家主権の軽視に繋がるような国連の発展、事務総長権限の拡大について主権国家は非常に慎重な見解を保っている。つまり残念ながら、より深刻な事態を経てしか、常設の国連緊急展開部隊に反対する各国政府を納得させることはできないだろう。人道危機を放置するリスクのほうが、国家主権に対するいかなる脅威にも勝ることを各国が知るにはまだまだ時間がかかりそうであ

しかしその一方で、緊急平和―ビスを具体化する構想やその具体的な実施計画を固めることは依然として不可欠である。

この事業こそ、責任ある国際機関としての新たな機能を備えた国連にとって、そして将来命を救われるかもしれない幾万にも及ぶ無辜の人々にとって極めて重要な事業となるのである。

ビジョンに富んだアイディアというものは、得てしてもっともらしい批判の対象となる。このUNEPS構想のようなもの(最終的にどう呼ばれるかは定かではない)も例外ではない。

しかし、この構想に賛同できる究極の理由が一つだけある。

それは、「UNEPSは必ず実現しなければならない。

そして一刻も早く実現しなければならない」ということである。

It is desperately needed, and it is needed as soon as possible.1
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私「ちょっと古いが、まあそういうことだ。ただ君たちが本気でやるなら、UNEPSがリビアやシリア、アフガニスタン、イラン、パレスチナなどでどんなことができるのか示す必要があるだろう。

それと同時に保護する責任、保護している間の責任といった理念に基づいて実際の活動をどう措置するのか明文化しなくてはならない。不断の見直しも必要だ。日本がリーダーシップをとるなら、北朝鮮、竹島、尖閣、北方領土、沖縄問題、日米同盟、中国の台頭という現のなかでUNEPSがどんな意味をもつのか有権者に訴えなくては政治的な力にはならないだろう。そして何より大事なのは、安保理が機能しない中で..」

アンポリ「みゃー」

「お前も律儀に必ず返事してくれるなあ」

「ゴロゴロ」

「いずれにしてもだ、そういうことだ」

ハナ「何がそういうことなんですか?」

私「難しいってことだ」

「難しいくらい初めから分かってます」

「ほう」

「だから戦略をつくるんです」

「ほう?」

「そして戦術を選ぶのです」

「ほう」

「必ずできます」

「ほう?」 「なぜできるか、分かりますか?」

「いや」 「UNEPSは絶対に必要だから、そして、一刻も早く必要だからです」

「よしわかった。それなら次回、その戦略とやらの話を聞こうじゃないか」


キッズ「おーっ」




犬塚直史






参照1

United Nations Emergency Peace Service, 2006, GAPW, WFM, NAPF