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「敵のいない軍隊」とダグ・ハマーショルド②

私「今日はハマーショルドさんに特別講義をしてもらうことにした」

一同「えー、まだ生きてるの?」

私「そこのところは、まあ何て言うか、タイムマシーンみないなもんだ」
ハマーショルド「ハイ、ベイビー」
一同「えーっ、本物だー!ハイ、ベイビーだって!」
私「じゃあダグ、この子達にピースキーピングの始まりを教えてやってくれ」
一同「ダグだって!完全にため口きいてる!」

私「目的は一緒なんだから当たり前だ。キッズ地球防衛隊のためなら、歴史上のどんな偉人も友達なのさ」

イチロー「そうだ!昔の奴らにできなかったことを俺がやってみせるぜ!」

ハナ「俺たちでしょ」
私「さあキッズ防衛隊の諸君、なんでも聞いてくれ」
ケンジ「あんたどうやって出てきたの?」

ハマーショルド「オー、その質問はタブーです。ワンアウト」
ハナ「何かこの人、ジニーみたい。私好きだわ」
イチロー「敵のいない軍隊って何ですか?」

ハマーショルド「ピースキーピングの理念だ。超国家的な組織でなければあり得
ない理念だ。世界が一触即発の危機に陥ったスエズ動乱の時に編み出された原則に支えられている」
ケンジ「ピースキーパーだって武器をもってるんでしょ。敵がいないんなら必要
ないじゃない?」

ハマーショルド「うん、良い質問だ。それに答える前に皆に教えてもらいたい。
軍隊の目的って何だい?」
イチロー「敵をやっつける」

ケンジ「まず、自分の国を治める」
ハナ「本当に強ければ、誰もケンカをしかけてこない」

私「(こいつら急に出来すぎの答えをするようになったなあ..)」

ハマーショルド「そうだ。軍の目的は敵を殲滅し、占領し、服従させることだ。
国内でも、この力で最終的に国を治める。そしてその潜在力をもって敵の攻撃を
抑止し、外交を有利に進めるんだ」

ハナ「国連軍をつくってそうしようとしたの?」

ハマーショルド「いや、国連軍は世界の警察官になることをめざしたんだ。世界
の平和と安定に脅威となるようなことをする国に対して、皆が一致してこれを制
裁するしくみだった」


イチロー「でも加盟国の意見が合わなくてできなかった..」

ハマーショルド「そう。スエズ動乱の時もそうだった。国連安全保障理事会でイ
ギリス、フランスが拒否権を発動して、安保理決議は採択できなかった」

ハナ「拒否権、というのは五大国(米・中・露・英・仏)に逆らえないっていう
ことね」

ハマーショルド「五大国の国益に反して、あるいは五大国に対して強制力を使う
ような決議は一切できないということだ。国連の限界の一つだ。今回はなんとか
乗り越えたけどね」

ハナ「どうやって乗り越えたの?」

ハマーショルド「拒否権で動かない安保理を超えて、総会の場で“平和への結集決議”というのを採択して五大国も反対出来ないようにしたんだ」

イチロー「やるじゃないか!」
ハマーショルド「まあね」
ケンジ「すげー!」
ハマーショルド「まあ、ウルトラCという感じだな」

ハナ「いやだこの人、自慢してるのかしら」

ハマーショルド「えーと、いずれにしてもだ、この“平和への結集決議”に基づいて国連緊急軍(United Nations Emergency Force1, UNEF1)を展開させることができた。戦争をしている英・仏・イスラエル連合勢力とエジプトの間に、国連とい
う中立の旗をもった軍事組織を駐留させて緩衝地帯をつくり、武力衝突をやめさ
せたんだよ」


ケンジ「でも、国連って国はないんだから、中立と言ってもどこかの国の軍隊な
んでしょ?」


ハマーショルド「そう。最大で6,000名のピースキーパーが紛争地に展開したが、
五大国は入れなかったし、司令官もカナダ、インド、ブラジルなどの国から任命
されたんだ。どちらかの味方だと見なされた時点で、この作戦は失敗だからね。
私もスゥエーデン出身さ」

ケンジ「何人死んだの?」

ハナ「あんた失礼よ!」
ハマーショルド「12年間展開している間に、110名の尊い犠牲を出した。命を救う
という使命に、命を捧げたんだよ」

ケンジ「ごめんなさい」
イチロー「でも、敵をやっつけることが目的じゃないんなら、いつ、どうやって
撤収を決めたの?」

ハマーショルド「基本的にはエジプトの領土の話だからエジプトの判断なんだ
が、紛争当事者だからそうもいかない。国連の判断、という話にはエジプトは絶
対に乗れない。最終的にはお互いを信じてスタートする“信義則”の原則をとった。これ以外、あり得なかったと思う」


ハナ「信じ合えるなんて素敵!やっぱり愛が世界を救うんだわ」

ケンジ「そういう問題じゃないだろ!」

イチロー「でもエジプトにしてみれば、国連とはいえ、自国の領土に外国軍を入
れる事に反対しなかったの?」

ハマーショルド「そこが一番大切なところで、“同意原則”という。どんなに紛争を
止めさせるための緩衝地帯をつくるためであっても、当時国の同意がなければ入りません、という原則だ。」

ケンジ「敵のいない軍隊がどうして武器をもつの?」
ハマーショルド「丸腰で行く場合もあるよ。たとえば軍事監視とか武装解除なん
かの場合は、武器の専門家である軍人がユニフォームを着るが丸腰で行く。ピ
ースキーピングは最低限の武器を携行する。実際に武器を使用するのは自己保
存、つまり自己防衛とか、目的達成のための必要最低限の場合に限られる。放
っておいたら止まらない殺し合いを目の前にして、どんな装備が必要かっていう
判断だ」
イチロー「すげー!ここはハマーショルドのおっさんに負けとくぜ」

ケンジ「またそれかよ」

イチロー「ハマーショルドさんよ、おれが21世紀のピースキーピングを作ってや
る!」

ハナ「俺、じゃなくて俺たち!」

ハマーショルド「うん。本当に期待してるよ。それじゃ私はこれで」

一同「えーっ、まだ色々聞きたい!」

ハマーショルド「いや、きょうはこれからビーチでカクテル飲むんだ。私はもう
充分働いたからね。後は君たちに任せるよ。バーイ、ベイビー」

イチロー「行っちゃったよ」

ケンジ「バーイ、ベイビーだってよ」

ハナ「あの人、面白—い」

私「はいそれでは今日はこれでおしまいだ。(あー楽だった。もっとゲストを呼
ぶぞ)次回は、牙のある国際連盟の失敗の話をします」


イチロー「やったー、牙の話だ!」
ケンジ「オオカミ王ロボだ!」

ハナ「またジニーくるかしら?」
私「(こいつら、どうしてこういうノリに戻るんだろう..)」

つづく

犬塚直史(いぬづかただし)