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「保護する責任」市民社会連合設立への呼びかけ

 「保護する責任」原則の第二の潮流を掘り起こす
「大規模自然災害から保護する責任(RtoPfND)」原則の確立と普及


勝 見 貴 弘


エグゼクティブ・サマリー
2001年に国連総会にICISS(干渉と国家主権に関する国際委員会)報告書『保護する責任』(Responsibility to Protect:RtoP)が提出されてから、今年で10年が経過した。国際社会が「テロとの戦い」という新しい時代の戦争の幕開けを迎えた時に生まれたこの新たな国際規範となる概念は、長い間、“概念”に留まり、その理論が実践に移されることはなかった。しかし10年が経過した今年2011年、“概念”は突如、“実践”に移された。リビア事案への適用である。

「保護する責任」原則は、過去10年の間に国連総会、安保理で議論され、その発展を見てきた。2007年には、『保護する責任の履行』と題した国連事務総長報告がまとめられ、原則の発展と制度化が国連主導で推し進められた。しかしその過程で失われた議論があった。起草から10年経っていまや「伝統的な保護する責任原則」といえる現在の「保護する責任」原則は「個別の国家は、ジェノサイド、戦争犯罪、民族浄化および人道に対する罪からその国の人々を保護する責任を負う。」(2005年世界サミット成果文書第138項)とするもので、「その他の深刻な人道的危機」に対する責任としての議論が排除されてしまっていたのである。この「その他の深刻な人道的危機」には、温暖化による地球環境への影響(津波・干ばつ・飢饉・国土水没等)や大規模自然災害による被害(人的被害、環境被害・汚染、都市・地方・国の統治機構への損害等による国家の機能不全等)が含まれている。

『テロとの戦い』が始まってからの10年、国際社会は激動の時代を迎えた。大規模自然災害(Large-scale Natural Diasters:ND)は世界各地で頻発し、国際社会の重要な対処課題となった。2004年、米国はインドネシアのスマトラ沖津波対応を経て、その豊富な災害対処経験(表1参照)から、国家の最高軍事戦略である国家防衛戦略(National Defense Strategy:NDS)の4年毎の見直し(Quadrennial Defense Review:QDR)に基づき、とくに災害が頻発するアジア太平洋地域で多国間で協働して災害対処訓練を行う『パシフィック・パートナーシップ』(PP)を発足させ、発展させてきた。日本も、この取り組みに参加している。

2011年3月11日、当の日本が、未曾有の大災害を経験した。このとき、PPは稼動せず、日米二国間のみで『オペレーション・トモダチ』が実行に移された。災害発生直後からの日本政府の対応には多くの問題が見られ、情報開示、諸外国との連携、適切な行政指導、安全対策、予防策、復興支援策いずれにおいても、国民に十分な安心と満足を与える対応をしているとは言い難い状況にある。しかし「伝統的な保護する責任」原則においては、仮に日本政府の対応・施策が不十分だとしても、それが国民を保護する意思や能力の欠如に直接結びつかない。また、前述の3つの人道犯罪に対してのみ、国家に保護する責任の履行が求められるという制約がある。

そこで、国家の責任を再度見直し、最新の国際潮流に則ってあらためて大規模自然災害から保護する責任(Responsibility to Protect from Natural Disasters:RtoPfND(仮))原則の掘り起こし、確立と普及を目指し、市民社会の連帯を呼びかけたい。

市民社会の連帯と議論の呼びかけ
以下の一連のツイートのまとめでは、国家とは何か、その構成要件とは、国民は国家に何を求められるのか、国家が国民に対して果たさなければならない社会契約上の責任は何かを追求し、とくに第三部では、失われた「保護する責任」のもう一つの潮流を掘り起こし、国家に新たな層の責任を求める市民社会の連帯を呼びかけている。

世界連邦運動の関係者および世界連邦運動に関心のある方、またこの概念の発展普及に関心のある方におかれては、この呼びかけに対し、忌憚のない賛否両論の議論を行っていただければ幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。
表1:米海軍と海兵隊が参加した大きな救援活動(過去20年)


災害被災地作戦名
1990暴風チュニジア-
1990暴風アンティグアHurricane Hugo
1990暴風フィリピンTyphoon Mike
1990暴風グアムHurricane OFA
1990暴風フィリピンMud Pack
1990地震フィリピン-
1991暴風バングラディシュSea Angel
1991暴風アメリカンサモアBalm Restore
1991火山フィリピンFiery Vigil
1992火山イタリアHot Rock
1992干魃ミクロネシアWater Pitcher
1992干魃ソマリアProvide Relief
1992暴風グアムJTF Marianas
1992暴風バハマJTF Eleuthera
1993地震グアム-
1997暴風グアムTyphoon Paka
1999暴風ベネズエラFundamental Response
1999地震トルコAvid Response
2000暴風モザンビークSilent Promise
2004地震インドネシアUnified Assistance
2007暴風バングラデシュSea Angel II
2008暴風ミャンマー-
2009暴風フィリピンPacific Angel
2009地震インドネシアUnified Endeavor
2010地震ハイチUnified Response
米海兵隊は上記も含め1990年代前半以降55の人道支援・救援活動に参加しています。